last update 2001/10/28
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■君のためにできること■
=KINDNESS=
メルマガ連載小説





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それが彼の優しさです。







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((1))



 真っ白な大理石から掘り出されてきたかのように、きめの細かい白い肌が、まず目に刺さるように映った。
 砂埃の舞い上がる風の吹きすさぶ中、きらきらと輝く檸檬色の髪は、みまごいようがない。
 伸びやかに眼前を指し示すように掲げられた腕には、端正な顔には凡そ似つかわしくないような荒傷が走っている。
 右足は一歩踏み出して、地を均すように踏みしめられ、左足は、足元にある背丈の低い草を掻き分けるように立っている。
 わずかな喉仏に、かすかにやさしい影がある。
 薄く開かれた唇のうちで呪詛を唱え、裂帛の気合が迸った。
「デルタ・ぺトラ!」
「ナルセスさん!」
 ウィルの呼びかけとナルセスの呪文が、折り重なるように発せられる。
 刹那、光が膨張し、辺り一体は真昼でも、なお眩しいと思うほど、大量の光の奔流が迸った。
 網膜に焼きつくほどの光の中心に、ナルセスは悠然と立っている。
 長い裳裾は、爆風にあおられてたなびき、強烈な光のために、色飛びして見えるほどだ。
 彼の薄い唇の端に刻まれた笑みは、どこか酷薄な印象を与えた。
 パーティに覆い被さるように襲い掛かってきたモンスターの一群は、広範囲に発生したナルセスの術の放つ光の帯に巻き込まれ、あるものは瞬時に石化して砕け散り、またあるものは光の瀑布に揉み消されるように消滅した。

 ナルセスは何事もなかったかのように、砂煙の中から歩み出て、ウィルたちを振り返った。
 その視線の先、蹲るようにタイラーが膝を折って座り込んでいる。
「ニーナさん!」
 タイラーは叫ぶようにその名を呼び、よろめきかけたニーナの体を抱きとめた。
 コーデリアも慌てて駆け寄る。
 ウィルは3人に駆け寄りながら、何か治療するものはないかと、手持ちの鞄の底をさらうように漁った。
「おばさん!」
 ウィルは叔母でもあり、育ての親でもあるニーナを呼び、うろたえたようにナルセスに視線をなげやった。
 ナルセスは大股に仲間の下へ歩み寄ると、ウィルを促して、場所を空けさせる。
 ナルセスは小さく息を吐き、ニーナの頬に掌をあてた。
 昏睡状態に陥った時のような体温の低下は感じられない。
 むしろ熱っぽく、紅潮しているようだった。
 空を見上げれば、目に突き刺さるような激しさで、陽光が降り注いできている。
 辺りには日光を遮るような樹木はなく、地を這う草もほとんど見られない。
 粗く砕かれたような岩石の山が聳え、人が通るには不都合な状況が揃いすぎていた。
 太陽熱によって岩は常軌を逸するほどまでに加熱され、自分たちのいる渓谷に、放射される熱波が押し寄せてきていた。
「…日射病かもしれないな」
 ナルセスはそう言うと、
 携帯していた残りわずかな水筒の中の水を、自分の掌に注いだ。水はぬるく、心許なかったが、ナルセスは神経を集中し、唇のうちで素早く呪詛を唱える。
 水のアニマの媒介によって、辺りはほんの少し涼やかな空気が立ち込めた。
 淡い水色の光は、慈しむような優しさで、ニーナの上半身を照らしている。

 …生命の水。

 ウィルはその光景を見つめながら、心の中で、その術の名を反芻した。
 クヴェルでもなく、ツールでもないただの水が、ゆっくりと、だが確実にニーナを癒していく。
 湖や海など、大量に水のアニマがあるような地形ならば、自分にも同じことができたかもしれない。
 だがしかし、コップ1杯にも満たない、ほんのひとくちほどしかない水で、一体自分は何ができようか。
 ウィルは何とはなしに、そんなことを考えていた。
 青白い光に照らされたナルセスの表情は、冒険者にしては珍しいほど端正な造りだった。
 照らされている光に透けてしまいそうな顔には、命のかがり火のような、紅玉の双眸が備わっている。
 まるで敬虔な神の信徒でもあるかのような厳かな表情を見ていると、灼熱地獄のようなこの場所だったが、辺りが一気に清冽な空気に変わるような気がした。
 しばらくすると、幾分ニーナの顔色が良くなり、穏やかな呼吸をするようになった。3人はほっと安堵の微笑を洩らす。
「…すいません…」
 ウィルは震える声で言った。
「僕が無謀だったんです。岩荒野がこんなにも危険な所だったなんて…」
 ナルセスはウィルの言葉を否定するでも肯定するでもなく、手早く荷物を担いだ。
「タイラーはニーナさんを頼む。荷物はコーデリアとウィルと私とで分配して持とう」
 タイラーは小さく頷くとニーナを背負い、立ち上がった。
「ナルセスさん…」
 ウィルは絡まりそうな舌で、ナルセスの名を呼んだ。
 せめて罵声を浴びせ掛けられるほうが、どれほど気が楽だろうと、ウィルは思った。
 俯くと涙がこぼれそうだった。
 食いしばった奥歯が、カチカチ鳴る。
 喉が震えて、気を抜けばすぐさま嗚咽が洩れそうだった。
「もう少し行った所に小さな泉ががあるはずだ。水場はモンスターも多いが、こんな状態でうろついても、かえって危険だろう。今日はもうそこで休もう」
 ナルセスはそう言って、別段ウィルを責めるふうでもなく歩き出した。
 ウィルは顔を上げられず、何度も手の甲で目を擦る。
 ナルセスはすれ違いざまウィルの隣で足を止めた。
「…誰のせいでもない。よくあることだ」
 短くそう言って、励ますようにウィルの背を叩く。



((2))



 一行は険しい山岳を辿った。
 岩は乾燥して表面が砂地のようだったし、空気は暑く重たく、肺を焦がすかのようだった。
 しかし幸いにも、程なくして目的の水辺に達することができた。
 心配していたモンスターの姿が見られなかったのが、彼らにとっては非常に幸運だった。
 ナルセスは荷物を置くと、何枚かのタオルを取り出して、水に濡らした。
 その間にタイラーは荷物を枕代わりにして、ニーナを横たえる。
 ウィルは力なくニーナの頭の側に座り込み、てきぱきと行動する先輩ヴィジランツ達の姿を目で追うばかりだった。
「大丈夫よ、ウィル。ナルセスさんが治療してくれたし」
 コーデリアは励ますように明るい声でそう言ったが、ウィルの心は晴れない。
「…ほら」
 と短くナルセスがウィルに声を掛け、ゆるく絞った濡れタオルを投げて渡した。
 跳ねた水飛沫の冷たさに、幾分かわれに返ったウィルは、のろのろと首を上げ、仲間を順繰りに見渡す。
 コーデリアやタイラーは、渡されたタオルで砂埃や汗にまみれた体を拭っている。
 一方ナルセスは、横たえられたニーナの顔や首を丁寧に拭ってやっていた。
「…っ! 僕! 僕がやります!」
 ウィルは慌ててナルセスからタオルを奪い取り、ニーナの顔を覗き込むようにして一心不乱に、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
 ナルセスはそんなウィルの姿を見て、かすかに笑いを洩らす。嘲笑というよりは、むしろ慈愛に満ちた表情で。
 空を見上げ、太陽の位置を確認すると、ナルセスはニーナとウィルの側に立ち、
 手にしていたタオルで自分の首の裏を、がしがしと乱暴に拭った。
「もう2時間もすれば、陽が傾くだろう。そうすればかなり気温も変わってくるはずだ。日が落ちる前には、野営の準備をしなければいけないが、今は休息すればいい」
 ナルセスはそう言うと、どこか遠くに目をやった。

 じりじりと焼きつきそうな日の光に、ウィルは辟易していた。
 じっと座り込んできるだけなのに、少しずつ体力を奪われていく感覚。
 汗が喉を伝う感触がする。
 暑いと口に出すと余計に暑くなりそうなので、ウィルは閉口したまま、手にしていたタオルを、
 きれいな面を表に向けて折り畳み、ニーナの額の上に置いてやった。
 じっとどこか遠くを見据えるナルセスを見上げて、ウィルは目を細めた。
 逆光を受けて、ナルセスの肢体は、かすかに陰を落としていたが、その金色の髪は、この世のものとは思えないほど、きらきらと光に透けている。
 睫毛の落とす陰が、信じられないほど長い。
 目を細めてみると、砂塵かかすかに舞い上がっているのが解った。
 揺らめく陽炎に重なって、その光景はどこか不思議な幻めいて、ウィルの目に映っていた。

「…ナルセスさん、地形に詳しいんですね」
 ウィルが何ともなしにそう口にすると、すこしばつが悪そうに、ナルセスは顔をしかめた。
「昔、一度通ったことがあるからな。大体の道は見当がつく」
 ナルセスはそう言うと、小さく吐息をついた。
「もう2度と、足を踏み入れるものか、と、思っていたんだがな…」
「…ナルセスさんが避けるほど、危険なところだったんですね…」
 ナルセスは小さくため息をつくと、ウィルを見下ろした。
「そういうわけではない。ただ…私にとっては利益のない場所だっただけだ。
 乾燥地帯にはクヴェルが少ないからな」
『危険』ということは、確かに否めないことだとはしても、
 今のパーティで越せない場所でもなかった。
 少なくとも、(シルマールやネーベルスタンの助力があったにしろ)自分が若かった頃に、通ることが出来たのだから。

 目を湖に見遣るとタイラーが枯れ枝を使って釣りを始めていた。
 コーディは野営の準備に、薪を拾い始めている。
 ニーナは先ほどに比べ、随分と顔色が良くなっていた。
 目覚めれてから、精のつくものでも食べ、充分休養をとれば良くなるだろう。
 それほど心配もいらない。

 …ただ、心配なのは。
 ナルセスは誰にも気づかれないような、小さなため息をついた。
 視線の先。
 ウィルは深く項垂れたまま、一向に顔を上げる気配は見られなかった。



((3))



 日が翳りだした途端に、急に外気が冷え込んでくる。
 砂漠地帯特有の急激な気温低下だ。日中と夜の気温差に、皆、身を震わせた。
 野生の動物やモンスターを近寄らせない目的で、普段は火を焚くが、今回は暖をとるのに功を奏していた。
 タイラーの釣り上げた魚を焼き、携帯食の乾パンを炙りなおして食べる。
 ウィルは食が進まないのか、目の前の食事にほとんど手をつけずにいた。
 彼の気持ちもわかるコーディは、『食べろ』と強く言えない。
「…ウィル、食べておかないと身が持たないぞ」
 タイラーは優しく声をかけ、調達した飲み水を差し出した。
「せめて水だけでも…」
 タイラーの言葉に、ウィルは小さく笑って応えるだけだ。
「…ウィル」
 ナルセスは低く言う。
「食べるんだ」
 逆らうことを赦さない、強い物言いだ。
「ちょっと、ナルセスさん…!」
 コーデリアが身を乗り出す。専横的すぎるナルセスの声が、さすがに強制しすぎているように感じられたからだ。
「食事を抜いたくらいで倒れでもしたら、面倒を見切れないぞ」
 その言葉に、ウィルはぐっと唇を引き結んだ。
 虚ろに食事を見つめ、無造作に口に詰め込む。
「……」
 ナルセスは黙ってウィルの姿を見守り、
 彼の皿が空になると静かに立ち上がった。
「…ナルセスさん?」
「…ニーナさんの様子を看てくる」
 タイラーの呼びかけに短く返答し、ナルセスは水筒と沸かした湯の入ったカップと、薬草の束を持って、少し離れたところに横たえられていたニーナの元へと、足早に歩いていってしまった。


 ナルセスが立ち去ると、3人の間に、奇妙な空気が立ち込めた。
 タイラーは水を飲みながら薪をくべている。
 ウィルは俯いたきり顔を上げない。
 コーデリアは居ずらそうに身じろぎしながら、膝を抱えた。
「…ナルセスさんは、お前を気遣ってああ言ったんだ」
 不意にタイラーが声を発した。
「ニーナさんのことで気落ちしている上に、食事を抜いて体力まで落ちたら、目もあてられないだろう?」
「…解っています」
 ウィルは小さく微笑んだ。
「ああでも言ってもらわなきゃ、僕、食事なんて取れなかったと思います…」
 ウィルの微笑みはどこか引きつっているように、コーデリアの目に映っていた。


「…具合はどうだ?」
 ナルセスは言いながら、ニーナの傍らに膝をついた。
 眼を薄く開いたニーナは上半身を起こし、小さく背伸びする。
「ああ、悪いね。さすがにここの暑さは、この年になると辛くてね」
 ナルセスは束になっていた薬草から、いくつかを選び出す。
「疲労回復と解熱効果のある薬草を、近場で探したんだが…。
 何分この気候だから、草もあまり生えていなくてな…」
 薬草を小さく千切って湯の入ったカップへ浸し、ニーナに手渡した。
「…すまないね」
 ニーナは薬湯を啜り、ひとつ息をついた。
「…ウィルは」
「壮大に自己嫌悪している」
 ナルセスはきっぱりと言い放った。
 あまりにはっきり言われ、『多分そうだろう』と思っていたニーナでさえ、
 かすかに笑いを洩らす。
「あの子のことだから、自分を責めるだろうと思ってはいたんだけどね…」
 指先を温めるようにカップを握り締め、ニーナは言葉を連ねた。
「利口すぎるんだよ、あの子は。何もかも自分の責任って、背負いこんでしまう…」
 ナルセスは黙ってその言葉に耳を傾けている。
「いさめようにも、あの子がしていることが悪とは言えないもんだから、なかなか強く言えないしねぇ…」
 小さく微笑みを洩らすニーナのその表情は、かすかに暗く翳っていた。
 気弱になっているニーナを見たことがなかったナルセスは、どう返答したものかと考え込む。
「…本当の親じゃないから」
 不意にでたニーナのその言葉に、ナルセスは、はっと顔を上げた。
「どこか遠慮があるのかもしれないね…」
「…そういうわけでは…」
 ないと思う。
 ナルセスはニーナを見遣った。
 普段の彼女からは想像もつかないような、意気消沈した表情だった。
 かすかに潤んだ瞳から、今にも雫が零れそうなほどに。
 普段は辛辣なナルセスも、これには閉口せざるを得なかった。
 そっけなく、きつい物言いをするナルセスではあったが、根本的な部分では、人に対して暖かい。
 冗談混じりに悪辣なことを言うことはあっても、このような場面を、冗談で濁すような真似は出来なかった。
「でも、安心したんだよ」
「?」
 ニーナは明るく笑って見せた。
 その表情が、無理に笑ってみせる、ウィルのその表情によく似ていた。
 それは、やはり親子なのだ、とナルセスに思わしめる。
「ウィルが、あんたみたいなヴィジランツと組んでいて…」
 唐突に言われたその予想だにしない言葉に、ナルセスは目を見開く。
「あんたみたいに、ウィルを叱り付けてくれる仲間がいて、良かった、ってことだよ」
 『お前のような奴は!』と罵られこそしたが、こうして面と向かって誉められる(?)といったことには、ナルセスはとことん無縁だった。
「そりゃあ、ただ叱るだけだったら、誰にでもできるかもしれないけど」
 揺らめく薬湯の水面を見つめ、ニーナは言った。
「あんたは…さりげなくウィルを守ってくれてるしね」
 『あたしがいなくても、きっとあの子は大丈夫』という想いがうかぶと、ニーナは酷く安堵した。同時に、少し寂しくもあったが。
 ナルセスは、気恥ずかしさからか顔をそむけて、何処か遠くを見据えている。
 荒野の果ての、まだその向こうを。

 ニーナはナルセスの横顔を見ながら、小さく笑う。
「ナルセス」
 呼びかけにナルセスは首だけめぐらせてニーナを見た。
「…首の日焼け」
 ニーナの言葉に、はっとナルセスは首の後ろを手で押さえた。
「冷やさないと明日、痛くなるよ」
 一瞬ナルセスは驚いたように目を見開いていたが、程なくして、普段の辛辣な微笑を唇の端に刻んだ。
「…めざといな」
 言葉使いこそ乱暴だが、その言葉には、
 確かに敬意が込められていた。



((4))



「さぁっ、気張っていくよ!」
 完全回復したニーナは、パーティの先頭に立って、率先して歩き出す。
 ウィルは安心したのか、いつもの笑顔を取り戻して、駆け足でニーナの後を追う。
 コーデリアもそれに続いた。
 やれやれといった表情でタイラーが苦笑し、ナルセスと目配せし合って歩き出した。
 『さて、じゃあ行きますか』とでもいいたげな表情で。
 『ああ、そうだな』と目で応えながら笑いを洩らし、ナルセスは荷物を担いだ。

 山岳の合間から、憎らしいほど熱い光線を放ってくる太陽を睨みつけ、ウィルはずり落ちそう担った鞄を背負い直した。

 いくら体調が戻ったとはいえ、病み上がりのニーナに荷物を持たせるわけにはいかない。
 ウィルは叔母の分の荷物も担いでいる。
 とはいえ、飲料水などの重い荷物のほとんどはタイラーが持っているし、量のかさばる薬草やら雑貨物はナルセスが持ち運んでいた。
 実質ウィルが持っている荷物といえば、発掘に必要な道具の一揃いと、ニーナの持っていた非常食程度だ。

 いつの間にか追いついてきたナルセスが、先頭に立って方角を確認しながら、歩きやすいルートを探している。
 タイラーは最後尾、しんがりをつとめ、背後からのモンスターの動きに気を配っていた。



「ああ、やっぱり」
 ニーナがナルセスの後姿を見つめて嘯いた。
「昨日、ちゃんと言っておいたのに…」
「叔母さん?」
 ウィルはニーナの言葉に、怪訝そうに顔をひそませる。
「ナルセスさんが、どうかしたの?」
 ニーナは目を丸くし、唐突に笑い出した。
「ウィル、あんたは気づいてなかったのかい?」
 そういって顎をしゃくって、ナルセスを指し示した。
「首の後ろ。凄く日焼けしてるじゃないか」
「そりゃ、この日差しだし…」
 日焼けくらいはしょうがない、とウィルが言うと、ニーナは苦笑した。
「昨日、あたしが倒れた後。水辺で休んでいたとき。寝ていたあたしや、座り込んだあんたのそばに居たナルセスが、立ったまま動かなかったろう?」
 言われてウィルは、その情景を思い浮かべた。
 逆光を受けて、暗く翳っていたナルセスの表情を。
「ナルセスはね…」
 何か秘密ごとでも囁くように、ニーナはウィルの耳に小さくしゃべりかけた。

「あんたやあたしが、少しでも涼しくなるようにって、自分の影がなるべく沢山あたしたちにかかるように、太陽を背にして、ああして立ったままいたんだよ」

 もともと1日で荒野を抜けるはずだったため、野営をする準備も無く、もちろん、日を遮る道具の持ち合わせなど、これっぽっちも無かった。
 自分だって疲れていたはずなのに、座って、ゆっくり休みたかったはずだったろうに。
 日が暮れる頃には、薬草を探し回ったり。
 そうやって仲間を気遣うナルセスに、ニーナは涙が出そうになった。

「ナルセスになら、あんたを頼めるねぇ」
 微笑んだニーナは、眩しそうにナルセスを見遣った。
 金色の髪が、ぎらぎら降り注ぐ陽光を反射してきらめいている。

 唯一の希望のように。









END

■あとがき
■ナルウィルちっくな話になってしまいました…。
 ま、いいでショ。高宮、ナルウィルも好きだし。
 (そォゆー問題か??)

 ウィル編初期、岩荒野のあたりの話。
 岩荒野…むずかしかったっす。レベル、全然足りなくて。
 逃げまくってました(爆)

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