last update 2001/08/11
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■その言葉に寄せて■
=He words his minds cleary.=





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それは問われたから出た言葉ではなく
涙のように、自身から迸った『ことば』なのだ。








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 ビットはもう何度目か解らないため息をついて、白い天井を見上げた。あたりはせわしなく走り回る看護婦や、面会を求めに来た家族とおぼしき人たちでごった返している。
 独特の消毒臭が鼻をつく。あまりいい印象は与えない。


 セントラルホスピタル。


 近隣ではもっとも大きな医療施設だ。
 広いロビーは行き交う人の波でさざめいていたし、館内アナウンスがひっきりなしに入る。
 ビットは再びため息をついて、病棟に続く廊下を見遣った。


 …と。


「待たせたな」
 聴きなれた声のするほうを振り返り、ビットは自分を励ますように、妙に明るく声を発した。
「ほんっとーーにな!」
 頭と左腕に包帯を巻かれたバラッドに、一瞬ぎくりとしたが、意外にも随分と元気そうな姿だったのを見て、ビットもほっと胸を撫で下ろした。
「何だよ、頭まで怪我してたのか?」
「…ああ…」
 包帯を巻かれた頭を掻きながら、バラッドは苦笑する。
「一応精密検査を受けるように博士にも言われたしな。見た目ほど派手な傷じゃないんだが…まぁ治療しておくに越したことも無いしな」
 …確かに、とビットは思った。
 フォックスのあの有様を見たら、誰でも大事を取ったほうがいいと言うだろう。


 ロイヤルカップ最終戦。
 フューラーの攻撃をまともに喰らい、片足のもげた状態で、地面に激突したフォックス。あのスピードで3つの足では、体制を立て直すことはまず無理だった。バラッドの咄嗟の気転で胴体から地面と衝突したが、そのときの衝撃は計り知れない。
 案の定バラッドは負傷し、こうして病院にくる羽目になったのだ。
 ただ思いのほか軽症で済んだのは、不幸中の幸いだったのだろう。フォックスのセーフティシステムと、バラッドの操縦技術のなせる業だったのかもしれない。


 ビットは柄にも無く落ち込んだ。
 ライガーをゼロに換装する時間を稼ぐために、バラッドは負傷したのだ。
 『自分のせいで』誰かが傷つくというのは、初めての体験だった。


「帰りも俺が運転するからなッ」
 いいながらビットはポケットをあさり、車のキーを捜す。
「行きもお前、運転しただろ。帰りは俺が…」
 バラッドが言いかけると、ビットはものすごい形相で睨み返す。
「ばかやろー。怪我人は大人しくしやがれ!」
 バラッドは苦笑を洩らす。が、すぐさま随分と生真面目な表情を作った。
「バカはどっちだ。結構ファームまで距離があるンだぞ。お前だって疲れてるだろうが」
 無傷ではあっても、フューラーと戦った明くる日だ。体調が万全でないのは、何もバラッド本人だけではない。アルティメットX『ライガー・ゼロ』とシンクロしながら操縦することは、精神的に大きな負荷がかかるのだと、トロス博士が言っていた。
「無理すンな。帰りは俺が運転する」
「絶ッッ対駄目だっ!」
 ビットはものすごい剣幕でまくしたてた。バラッドもあっけにとられ、大人しくビットに従う。
 バラッドが医局で処方箋を受け取っている間に、ビットは手早く車を入り口につけた。しぶしぶバラッドは助手席のシートに腰をおろすと、釘をさすように言う。
「いいか、疲れたらすぐ代わるンだぞ!」








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「…何の薬、出されたンだよ」
 ビットはハンドルを握り、前を見据えたままバラッドに言う。
「湿布と痛み止め…あとは睡眠薬」
「睡眠薬ゥ!?」
「痛みが引かなくて眠れないときは飲めってさ」
 バラッドは大人しくシートに腰を落ち着けながら、何とは無しに窓の外をぼんやりと見つめていた。浩々と広がる荒野に、道とは言いがたいような未舗装の道が続いている。時折タイヤが岩を踏み越えて、車体が大きく揺れることもある。
 車の振動に、傷口が刺激され、ずきずきと熱をはらんだが、病院で施された鎮痛剤が効いているのか、痛みはほとんど無い。ふとビットに視線を向けてみれば、案の定、目が虚ろになっている。
「…運転、代わろうか?」
 バラッドが口を開くと、ビットは半分ヤケになったように、『嫌だ』の一点張りである。
 疲労のいろが随分と色濃く伺えるだけに、バラッドは小さくため息をついた。
「分かった。運転は代わらない。とりあえず車、停めろ」
 バラッドが決して逆らわせないような、低い声色で専横的にそう言ったためか、ビットも大人しく道路脇に車を停車させた。
 バラッドは後部座席から缶ジュースを取り出し、蓋を開け、ビットに手渡す。
「少し休んでから行こう」






 妙な沈黙があたりを支配していた。
 バラッドは缶コーヒーに、時折思い出したように口をつけるだけで、特に何も言い出さない。その沈黙に耐えられないのはビットの方であった。そわそわとあたりを見回したり、がむしゃらに、あおるようにジュースを胃に流し込む。
 一連のビットの行動を見ながら、バラッドは『休むどころじゃないな』と苦笑した。


「…悪かったな」
 ビットは小さく呟いた。バラッドは缶コーヒーから口を離し、耳を傾ける。
「俺さ、ちゃんとお前に謝っとかなきゃって、ずっと思ってたンだけど…何か、タイミング外しちまって…」
「…お前が気にすることじゃない」
 バラッドはそう言ってコーヒーを口に含む。
「でも」
 ぐっと息を飲み込んで、ビットは言う。
「…やっぱ、俺のせいだし…」
 空になった缶を握る手が、微かに震えている。
「そりゃ、今回はたまたま軽症で済んだかも知れないけど、一歩間違ったら…」


 ……死。


 ビットはそれ以上口に出して言うことが出来なかった。
 口に出したら却って、それが現実になってしまいそうだった。


「エンギでもないことを考えるな、バカ」
 バラッドはそういうと俯いたきり顔を上げないビットの頭を、掌でくしゃくしゃと撫でる。
「そんなこと言い出したらキリがないだろォが」
「でも…」
「あのな」
 バラッドは大仰な仕草で肩をすくめる。
「いちいちそんな事言ってたら、ゾイドバトルなんかできやしねーぞ」
 ビットは何も言わない。バラッドはひとつ息をついて、さらに言い募った。
「それにな、何もボコられたのは俺だけじゃないだろ。リノンのガンスナイパーだって結構酷い有様だし、ジェミーなんてヘタしたら墜落しちまうかも知れないンだぞ」
「……」
「みんな、ちゃんと考えて行動してるんだ。何もスキ好んで死地に赴いたりしねーよ。…お前だってそうだろ?」
「…わかってるよ」
 分かってる、でも…。
 ビットはシートに体を預ける。
「理屈じゃねーん…だ…よ…」
 瞼が酷く重い。
「……心配…くらい…し、たって…いい…だ…ろ…」
 語尾は掠れて寝息と共に、ビットの唇のうちに吸い込まれていった。






「…心配してくれるのは嬉しいけどな」
 最後のひとくちのコーヒーをあおって、バラッドは言った。
「お前がヘコんでるのは、ちょっとばかり耐えられねーンだよ」
 ビットの寝顔を覗き込んで、バラッドは苦笑する。
「…随分良く効くな」
 バラッドは独りごちて、ビットを助手席側に引きずるように移動させた。
 ビットの手元にあった空き缶をくずかごへ押し込むのと一緒に、薬包紙も捨てる。
「さすがに病院で処方される薬は、家庭常備薬と違って強いみたいだな」
 鎮痛剤とともに処方された睡眠薬だったが、依怙地になっているビットを大人しくさせるのに功を奏したようだった。
「さすがにジュースに混ぜる程度じゃ、味で分かっちまうと思ったンだけどなー」
 あの飲み方じゃ、味もへったくれもないだろう、と思うと、笑いがこみ上げてくる。
 バラッドはくつくつと含み笑いを洩らして、助手席のシートを倒すと、後部座席に置いてあった毛布をビットに掛けてやった。
「ってゆーか、それ以前にフタ開けたジュース渡される時点で、おかしいって気づけよな、ビット」
 バラッドはそう言ってビットの前髪を指先で梳り、そっと額に口付ける。
「疲れてンだから、大人しく寝てればいいンだよ、莫迦野郎…」
 言葉とは裏腹に、バラッドの行為はひどく優しいものだった。









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「…ビット、ついたぞ」
 強く揺すられてビットは身じろいだ。掛けられていた毛布を手繰り寄せ、もう少し、と呟く。バラッドは苦笑し、かといってこのまま放置するわけにもいかず、ビットを担ごうと腕をとった。
「……!!!」
 その刹那、われに返ったビットは助手席から跳ね起きる。
「良く眠れたか?」
 バラッドはそう言ってからかうように笑った。
 あたりを見回せば、見覚えのある風景が目に飛び込んでくる。それも当然だ。既に、トロスファームに着いていたのだから。
「お、俺…?!」
「あー…」
 バラッドは、ばつが悪そうに鼻の頭を掻く。
「お前、起こすの可愛そうだったから、俺が運転しちまった」


 運転ッ!?


「まー、オートマ車だから、片手運転も平気だったしさ」
 ビットが呆然としているのを見つめ、後部座席に放ってあった薬の紙袋を拾い上げる。
「寝ちまって悪ィと思うンなら、車、車庫に入れておいてくれよな」
 俺は博士のところに報告に行くから、と言って、バラッドはとっとと屋内へ入っていってしまった。


 何!?
 俺って、寝ちまってたってコト!???


 頭の中でぐるぐるめぐる自己嫌悪の嵐に、ビットは眩暈を感じた。


「…最悪…」
 脱力してシートに寄りかかる。
 結局バラッドに運転をさせてしまった。
 ビットは深く嘆息をついた。
「フォックスの修理手伝おうとすれば、博士に『休んでなさい』って止められるし、バラッドの送り迎えくらい、ちゃんとやろうと思ったのになぁ…」
 そんなことも満足にこなせなかった自分に、嫌気がさしてくる。
「そりゃ、俺だって疲れてるよ。疲れてるけど…でも」
 それは怪我じゃない。
 あくまでも『疲労』だ。
 幾許かの時間で簡単に回復できる。
 負傷とはまったく別次元のはなしだ。
「治るのにかかる時間が、全然違うじゃんかよ、バカバラッドめ…」
 バラッドに対して悪態をついてみても、気分が晴れるわけではなかったが、ビットはブツブツと、バラッドの悪口を呟いていた。それが心配と不安の裏返しであることに、ビット自身気づいている。
「何かしてやらないと、不安なんだからしょうがないだろッ…!」




 浮かんできた涙を瞬いて散らせて、ビットは勢い良く起き上がった。自分を奮い起こすように。
 とりあえず車庫入れしなきゃ、と言い聞かせるように呟きながら、ビットは運転席に乗り込んだ。









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 車庫から直接格納庫の方へビットは足をむけたが、そこにはトロスの姿は無かった。
「博士はこっちには居ませんよ」
 ジェミーは言いながら、コンソールパネルを操りながら、作業アームを止めた。
「おっかしーなァ。バラッドの奴、博士のトコに行くって言ってたけど…」
「バラッドさん、どうでしたか?」
「え?あ…んー、どうだろ。見た目は元気そうだけど」
「そうですか。例え元気じゃなくても元気そうに振舞えるなら、それなりに大丈夫ってことですよ。良かったですね、ビットさん」
「…うん…」
 ビットは曖昧に返答を返して、格納庫を見渡した。配線の剥き出しになっているフォックスの足を見ると、痛々しい。
 ライガーの方は最終調整段階なのか、随分と小奇麗に磨かれていた。
 ビットに気づいたのか、ライガーが低く唸った。元気を出せ、と励ますように。
 ビットは小さく微笑んだが、すぐさま暗い表情になる。
「フォックスの方は、さすがに作業が難航しています」
 ジェミーはビットの横顔を見、そしてフォックスに目を向けた。
「もともと博士が作ったものじゃないせいもありますけど…。ホラ、やっぱりゾイドも作者のクセが出るというか。配線とか、結構難しいみたいで…」
 ビットの表情が曇ったきり晴れないのを見て、ジェミーは勇気付けるように言った。
「でも、さっきラオン博士のお見舞いに行ってるリノンさんから連絡があったんです。ラオン博士、結構早く退院できるみたいで。フォックスの修理、手伝ってくれるそうですよ」
 製作者が修理してくれるんですから、心強いですよね、とジェミーは笑顔で言った。だが、ビットの表情は決して明るいものにはならなかった。
 ひとつため息をついて、ジェミーは諭すように言った。
「あんまりビットさんがしょげてると、却ってバラッドさんが気を使っちゃうんじゃないですか?」
「…わかってるけどさー」
 ビットは小さく笑った。
「なかなか巧く振舞えないってゆーかさ」
 ビットは気丈に微笑んで見せたが、どこか作り物めいた笑いになってしまう。
 ジェミーは自分まで不安な気持ちになりそうになっていた。
「…ま、いいや」
 無理に明るい声を出して、ビットは伸びをした。
「とりあえず、他、あたってみるわ」
「…ビットさん…」
「邪魔して悪かったな、ジェミー!」
 笑顔で駆け出すビットの後姿を目で追いながら、ジェミーは深いため息をついた。








「格納庫じゃないとすると、ダイニングかなぁ…」
 ビットは呟きながら、ダイニングに続く廊下を歩いていた。
「…ん?」
 ダイニングの手前のフロアから、微かな話し声が聞こえる。
 やましい気持ちは無かったが、何故だかその会話に入ることも出来ず、ビットは思わず影に隠れて、その会話に耳をそばだてていた。







「あー、バラッド君、バラッド君」
「…はい?」
 トロスの呼びかけに、振り返ると、一瞬電撃のような痛みが体に走った。
「体調はどうだい?」
「…はぁ…。…まあまあ、といったところです」
 苦虫を噛み潰したように、無理な作り笑いをバラッドは浮かべた。
「無理はいかんよ」
 トロスはそう言って、声を潜めた。
「…病院から、カルテを転送してもらったんだ。随分こてんぱんにやられてるみたいだね」
「…知ってたんですか」
「診断結果を見るまでは、私も頭部の負傷と手首の捻挫くらいかと思っていたんだがね。肋骨のヒビと全身の打撲。服に隠れて見えないところばかり、随分と負傷してるみたいだが」
「痛みは薬で散らしてるんで、たいしたことは無いんですけど」
「…まさか肋骨までね」
「地面と激突したときの衝撃で、シートベルトが食い込んできた時、一瞬痛いとは思ったんですけどね…」
 バラッドは小さく笑ったが、すぐさま生真面目な表情を作ってため息をついた。
「ビットには言わないでやってください。あいつ、今回のこと、結構気にしてるみたいなんで」
「ビット君には言ってないの?」
 と別段驚いた風でもなく、トロスは言った。
「彼はあれで結構繊細なトコもあるしねー」
 トロスは言いながら小さく笑った。
「まぁ、今回は、不幸中の幸いだよ。命には別状ないんだしね。ゆっくり療養するといい」
「ありがとうございます」
「医療費もフォックスの修理費も、大会本部がロイヤルカップ上位入賞者に助成金出してくれてるしねー。安心しなさい。金銭面で君に負担がかかることも無い」
「はい」
「休暇を多めにとったと思って、羽根を伸ばしなさい」


 そういってトロスは、格納庫の方へ歩きだした。
 ここのところ、博士はライガーとフォックスの修理に追われている。
 いくらジェミーの補佐があるとはいえ、ほとんどの作業はトロスがしている。ライガーはゼロユニットがあるぶん、他の換装ユニットをすぐさま修理しなくてもいいだろうが、フォックスの場合は素体自体に損傷が激しい。もげた足を作り直して取り付ける作業が、夜を徹して行われているのに、バラッドは気づいていた。
 あくびを噛み殺して歩いていく博士の後ろ姿を見ながら、コーヒーの一杯でも淹れてもっていこうか、と、バラッドは思った。








 別段することもなく、バラッドは自室へ足を向ける。
 …と。
 壁際に、人影が映っていた。
 バラッドはいぶかしげに眉を顰め、その人影に向かって歩き出す。
 向こうもバラッドの気配に気づいたのか、慌てて駆け出した。
「!」
 バラッドはその人影が誰なのか考えながら、後を追う。


 トロスであることは論外。
 リノンはラオン博士の見舞いに行っているはずだ。
 ジェミーは格納庫で修理作業に追われている。
 答えは歴然としていた。


 博士との会話を聞かれた…!?


 バラッドの背中に、厭な冷や汗が流れる。
 いつかは知られる事実だとしても、もう少し自分の傷が癒えてから、笑い話に乗じて話すつもりだったのだ。
 それが、昨日の今日の傷のうちに知られてしまったとなると大誤算だ。


 人影は予想通り彼自身の自室へ駆け込んでいく。
 無理に走ったせいで、肋骨がぎしぎし悲鳴をあげている。
 呼吸を整えながら、バラッドはドアをノックした。
「…ビット」
 返事は無い。予想通りというべきだろうか。
 バラッドは仕方がないと言った風に肩をすくめ、気を取り直したように再び声をかける。
「おい、ビット」
 拳で殴るように叩くが、ロックがかけられたドアはびくともしない。
 舌打ちをして、バラッドはさらに声を張り上げる。
「シカトかよ!返事ぐらいしたらどォだッ!!!」
 いい加減イライラも限界まで達していたバラッドは、ことさら強くドアを叩く。
 …そして。
「あッ、傷が」
 少し嘘臭いかと自覚しながら、バラッドは言った。
「痛い」
 その途端、ドアのロックが外されビットが駆け寄ってくる。
「大丈夫かよッ!」
 半泣きの表情でビットはバラッドの顔を覗き込む。その姿が何故だかおかしくて、バラッドは忍び笑いを洩らした。
「!!!!」
 バラッドの様子を見て、自分がだまされたことに気づいたビットは、顔をみるみる紅潮させ、ドアを閉めようとする。
 バラッドは怪我をしていないほうの手でドアが閉まるのを阻み、無理矢理ビットの部屋に体を捻じ込んだ。
「せっかく開いたんだ。閉められてたまるか」
「うっさい、ボケっ!」
 ビットは悪態を吐くとベッドに潜り込む。
「少しでも心配した、俺がバカみたいじゃんか!」
「…ビット」
 シーツ越しに背中を撫でてやると、ビットの震えに気づいた。
 耳をそばだてると、微かに嗚咽が聞こえてくる。
「怪我…」
 バラッドはぶっきらぼうに言った。
「肋骨2本ヒビ入って、腹と胸と背中に打撲。あと左手の捻挫と頭2針縫った」
 自分の今の状態を素直に白状して、バラッドはビットを見遣った。
「正直に言わなかったことは、悪かったと思ってる…でも」
 こどもをあやすように、ビットの背中を叩きながらバラッドは言った。
「正直に言ったら、お前が責任感じちまうってわかってたから、言えなかった」
「俺を言い訳にすンなよ!」
 ビットは唐突に起き上がり、バラッドの手を払いのけた。
「…そうだな」
 バラッドはすこし寂しそうに笑った。
 ぐっと閉口したビットは両目を潤ませる。
「…違う…」
 ビットは両目を乱暴にこすって涙をごまかした。
「悪いのは、俺なんだ…。ちょっと考えればすぐわかることだったよ。捻挫とか頭のちょっとした怪我くらいで、痛み止めだとか睡眠薬まで病院が出すわけないって。そんな薬出すってことは…もっと、酷い怪我してるんだ…って」
 自分で言った言葉に、自分自身傷付いたように、ビットは声を震わせる。
「俺…自分のことばっかりで、お前のこと全然顧みてなかった…」
「あの状況じゃ仕方ないことだ」
 バラッドは言う。
「バトルはチーム戦だ。誰か1人でも残ればいい。フューラー相手に俺達2人とも、五体満足に勝ちおおせるとは思ってなかった」
 ビットは聞こえているのか聞こえていないのか、俯いたまま肩を震わせていた。
「あの場合、俺が捨て駒になるのが、最良の…」
「捨て駒とか言うなよ!」
 ビットは言いながらとうとう感極まったのか、嗚咽を洩らし始めた。
「す、捨て…駒とか…ッ!」
 …バラッドを捨て駒にする為に一緒に戦ってきたわけじゃない。
 ビットはビットは擦っても擦っても出てくる涙にうんざりしながら、必死で嗚咽をこらえていた。
「…わかってる」
 バラッドはいいざま、ビットの肩を抱いた。
 泣きじゃくるこどもをあやす母親のような優しさで。
「俺が勝手に判断してやったことだ。お前が気に病むことじゃない。それに捨て駒だからって、命を捨てるほどのことをやらかすつもりもまったく無かったからな」
 ビットの頭を撫で付けてバラッドは笑った。




「…Sクラスに、連れていってくれる約束だったろう?」
 そう言ってバラッドは、ビットの鼻先に優しく口付けた。
















END

■あとがき
■バラビ…ですか?ですよね。そういうことにしておいてください(汗)
 最終話後のお話ってカンジで。
 オチもクソもあったもんじゃない。何にもないやんけ。
 タイトルに深い意味はありません。適当です。
 最近タイトルを考えるのが苦痛でしょうがないです…。
 いっそ『無題』にしたいわ…。

*余談*
 この話の続きは裏にあります。
 そっちでは思いっきしヤっちゃってます。
 2001/08/13UP完了!
 興味のある方は裏へ行ってみよう!
 但しパス申請要ります。詳しくはサイトマップもしくは
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