危険な華の芽
先日女カに攻められてからはと言うと、どうも気が落ち着かない。
明日までに上仙に渡す書簡が思うように進まないでいた。筆を持っては置いての繰り返しで、気持ちは何処か遠くへ飛ばされているような感覚だった。
太公望は小さく息をはいた。
「全く……。とんでもない事をされたものだ……」
背中に当ててきた胸の感触は今でも残っている。首筋にかけてきた吐息、甘い声、腰に回る細い腕。
更に最近では、夢を見るようになった。あの続きをしているのだ。そして朝になって起きると、ぐっしょりと汗をかき、白い精を放出している。太公望はいよいよ情けなくなって、その日一日外へ出なかった。
こんなにも女カの躯を求めているのか。あの時、彼女にされるがままに弄ばれていた方が楽になっていたのだろうか? 寸止めされ、今己の欲求が高まるとは思いもしなかった。
「…………」
そう考えていたら、再び下半身が疼き出してきた。みっともない姿に苛立ちを覚え、顔を歪めた。
その時、ふわりと柔らかく上品な香の香りがし、太公望は神経を集中させる。
「誰かいるのか? 断りもなしに入ってくるとは、無礼極まりないな」
振り向くのと同時に指の先に集めていた気を、気配のある方向へと放つ。しかし放たれた気は、不審者に当たる前に跡形もなく消し去られてしまった。余程の使い手だと判断した太公望は、横に置いておいた打神鞭を手に取り、新たな仙術を唱え始めた。
「おいおい、私だ。坊や」
睨んだまま前を見ると、目の前には凛と立っている女カの姿があった。太公望は確認すると、構えていた打神鞭を下へ降ろし息をはいた。
「私の術を消し去るとは、やはり凄いな」
「褒められる程でもない。このくらい序の口だ」
いや、あれは余程訓練を積まなければ出来ない代物だ。しかし女カに言うまでもないなと考え直し、太公望は「そうか」と口早に言った。内心、少々悔しい。
「何か用事か? 私は忙しいのだ、手短に頼む」
「ふふっ、進んでいないくせに何を言う」
「っ!」
そう言い当てられ、太公望は眉をひそめる。全知全能である自分が、前日になってでも仕上がっていないのは誰にも知られたくなかった。誰のせいでこうなっていると言うのだ、と、声を上げて言いたいくらいだ。そんな太公望の心の中を言い当てるように、女カは言葉を続けた。
「何だ。溜まっているならいると、あの時言えば良かったのではないか?」
「ち、違う! どう解釈すればそんな答えになるというのだ!?」
「坊や」
女カは太公望に近づき、そっと白い頬に触れた。びくりと震えた後、ほんのり紅く染まっていく。にこっと笑って女カが話し出した。
「それは失礼した。だが坊やのここ……」
頬に当てられていた手は下へ下へ降りていき、太公望の太股に触れ、付け根へと渡っていく。
声を上げそうになったが動揺の方が大きく、上手く声にならないまま口を開いた。彼にしては間抜けな声が出る。
「……硬くなっているのではないか?」
「さ……、触るなっ!」
「どうして逃げる?」
女カは仙術を用いて、太公望の躯の自由を奪った。足が床と同化したかのようにピクリとも動かず、腕は何者かに押さえつけられているかのように動かない。抵抗してみたものの、なかなか術が解けないでいた。どうやら高度な仙術のようだ。思わず太公望は奥歯を噛み締める。
「女カ……っ! いい加減にしろ。早く術を解かぬか!」
「そう強がるな。ここ、反応しているではないか」
そう言って服の上から、下半身を下から上へと撫でた。
硬くなりつつある太公望の下半身は、その愛撫で反応した。快感はすぐに伝わり、小さく呻き声を上げる。
「ふふ、可愛いぞ」
「女カ……っ、やめ…ろ…っ」
心なしか体がゾクゾクする。触れられるたびに反応し、頭の中がぼうっとなるのだ。呼吸は乱れていき、もっと触れて欲しいとさえ思ってしまう。トロンとした双眸で、女カを見た。
「効いてきたか。では、そろそろ体を自由にしよう」
ふっ、と、手足が軽くなった。
しかし逃げたいはずなのに、思うように動かない。下半身がビクビクと震え、足がおぼつかないでいた。こんな事態初めての事で、太公望の頭の中はパニックに襲われた。焦れば焦る程足は立たなくなり、女カへ手を伸ばして助けを求めた。
「女カ……助けてくれ……。体が思うように動かないのだ……」
「…………」
「体が熱い……っ」
女カは伸ばされた手を握り、こう問いかけた。
「坊や、辛いか?」
喋る事もままならなく、小さくコクリと頷いた。
「では……少し楽にしてやろう」
「あ……っ」
女カは太公望の服をめくり、盛り上がった下半身に視線を寄せる。
触れられていないはずなのにも関わらず、そこは大きく己を主張していた。服の下にはいていた下着を下げると、主張している肉棒を軽く握り、扱(しご)き始めた。
「んぁ……っ!」
ビクンと太公望の腰が跳ね上がり、それと同時に肉棒も大きくなった。
「効きすぎだぞ…坊や。もうこんなに大きくして……」
妖艶に笑うと、それが喜びかというくらい手の動きは早くなっていく。
自分で手淫するよりも手際が良く、感じる場所ばかりさすってくる。いつの間にか太公望は、その快楽に浸り小さく喘ぎ、だらしなく脚を大きく開いていった。もはや己の躯ではないようだった。
その太公望の姿に女カも次第に興奮していき、モゾモゾと脚を動かし始めた。
「女……カ……」
「今よりももっと気持ちよくさせてやろう」
そう言うと、女カは肉棒を口の中に含んだ。その行動に驚いた太公望は目を丸くさせ、何か言いたそうに口を開いた。
女カは一切無視し、先端を舌で愛撫する。
思っていたよりも、目の前の少年の肉棒は大きかった。広がりも丸みも長さも、立派な『大人』だった。こんな風になるまで成長したのかと思うと、もう子供扱いしてはいけないなと心の中で笑った。
先からは先走り汁が既に出始めており、それを丹念に舐めりとる。そのついでに尿道を舌先でチロチロと舐めると、太公望は大きく喘ぎ声を上げた。そしてさらに透明な汁を流した。
「駄目だ……っ、出る……」
「もう駄目なのか?」
「いつもより…気持ちが良いのだ……。初めてだ……こんな気分は」
「よっぽど溜まっていたのだな」
口から肉棒を離し、再度手で愛撫し始める。先程よりも早く、そして感じる部分中心に触れた。
ビクンと脈を打ち、先走り汁を絶え間なく流す。それを指ですくって先端につけ、コリコリと扱(しご)いた。
「んああっ!!」
「坊や、出る時は出ると言えよ」
目を潤ませながら頷いた。
腰を浮かせ、脚を広げつま先をピンと伸ばして快楽を体現していた。
ラストスパートといわんばかりに、女カの手の動きは早くなっていく。握られている手は強弱がついて、先にいけばいくほどキュッと締められた。それが一番気持ちよかった。
限界を感じた肉棒は、一度大きく脈打つ。
「あぁっ!! で、出るっ……!!」
太公望が声を上げると、先端から勢いよく白い精を放出した。
精液は女カの手だけではなく顔にまでかかり、それから二、三度に分けて先端から出ていった。
その姿を見て、女カは震える程興奮した。
「こんなに沢山出して……。坊やは悪い子だな」
指先についた精液を舌先ですくい、舐めた。そんな女カを太公望は、肩で息をしながらじっと見つめていた。
そういえば躯が少しばかり軽くなったような感じだ。
そのまま気を失うように、涙目になった双眸をとじた。
気が付くと脱がされた下着は身につけられており、女カの姿もなかった。
既に日は落ちていて、火を灯していない太公望の部屋は闇に包まれていた。膝歩きで蝋燭台の傍まで行き火を点けると、仄かな朱色が放射状に広がっていく。
あの行為が現実に起こったとは思えないでいた。未だに夢かと思うくらいだ。
しかし、確実に下半身の疼きはなくなっている。それと、痺れもある。現実だ。
「全く。人を玩具(おもちゃ)のように扱いおって……」
この憎まれ口は何処から出ているのだろうか?
勝手に躯の自由を奪い、弄(もてあそ)ばれた事による怒りか。
それとも男としてのプライドを傷つけられた事による怒りか。
様々な感情が入り交じりつつ、太公望は遠くに浮かぶ月を見つめるのだった。
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09/02/25