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 婚約をしている司馬昭に内緒で、王元姫は彼の長兄である司馬師の寝室に度々訪れていた。そして弟の昭よりも熱い抱擁を受け、褥を共にした。背徳感と幸福感の間に挟まれ、王元姫の心には複雑な思いが巡っている。
 司馬師が彼女の膣内《なか》に白濁とした粘液を放出した後、敷き布に広がる金色の髪の毛を弄りながら、やや浮かない表情をしている元姫に声をかけた。

「どうした? せっかく愛し合ったというのに浮かない顔をしているな」

 恍惚と困惑が入り交じった双眸を向ける元姫に、司馬師は優しく抱き寄せ、耳元で囁く。

「……やはり金輪際このような事がなければよいか?」
「そ、そんな……!」

 我に返ったように元姫が声を荒げて、司馬師の身体に抱きついた。

「折角……想いが通じ合えたのに……、別れてしまうなんて考えたくはありません……っ」

 昭と婚約する以前から、元姫は師に想いを寄せていた。そして師もまた、元姫に対し特別な感情を持っていた事が最近判明したのだ。それを知ったときの元姫は天にも昇る気持ちだった。それと同時に司馬昭に対して罪悪感が生まれた。
 どちらも愛することは出来ない。しかし時が経つにつれて、司馬師も司馬昭も彼女の中で存在が大きく、重くなっていくばかりだ。昭と性交をしても、師と性交をしても気分は薄暗い靄《もや》がかかったままで、これからどうすればいいのかと日中考えてしまう。

「私はどちらかを選べ、とまでは言わぬ。ただ、元姫と愛し合える時間が持てればいい」
「子元殿……」
「こうしてお前の肌に触れ、淫靡な声を聞き、私の種子を膣内《なか》へ放てるだけでよいのだ。……受け入れてもらえていると実感出来れば、それでよい」
「にょ、女人の私は……、それぐらいしか殿方を受け止める事が出来ませんから……っ」

 思いがけない司馬師の言葉に、元姫はたじろぐ。頬を赤く染め照れる元姫に対し、司馬師はさも当然の事実を述べただけというような表情で、恥ずかしがる元姫を見つめていた。

「……もし、子が出来たら昭の子として育てよ」
「っ!?」
「私にもそれぐらいの覚悟が出来ている。あいつは良い父親になると思うぞ」

 変わらぬ表情で会話をする司馬師だったが、どこか瞳の奥に寂しげな色が見えたような気がした。
 元姫は司馬師の胸板に顔を埋め、汗ばむ彼の匂いを鼻腔に焼き付けながら、澄まさないと聞こえないような声で呟いた。

「あの……、子が出来ない間は、子元殿のお側にいてもよいでしょうか……?」

 元姫にらしかぬ大胆な発言に、師の双眸が僅かに見開く。

「……当然だ。私もお前の傍にいたいと願う」

 柔らかく微笑み、形の良い元姫の唇に己の唇を落とした。
 最初は啄むような優しい口づけだったが、次第に激しさを増していき部屋に荒い呼吸が響き渡る。

「子元殿……っ、愛しております」
「私もだ」

 それから二人は本日二度目の性交渉を迎えた。一度目よりも更に激しく、司馬師が満足する最高のものだったという――。






==了(2012/02/24)==
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