人と関わりを持つという事

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 人とは何と摩訶不思議な生き物だろうと、日に日にかぐやの心に『何か』感情が芽生えかけていた。弱いかと思えば、かぐやの想像を凌ぐ強さを発揮し、絶望的な状況を次々と覆していった。その人の子の姿を悠然と、どこか頼もしげに見つめている一人の若い仙人がいた。彼の名は太公望といい、今回かぐやのお目付役として行動を共にしている。

「太公望様。私は大きな勘違いをしていたようです」
「勘違い?」
「はい。人の子は私たち仙人と比べると非常に弱き者、守るべき相手だと認識しておりました。ですが――」
「かぐやの想像を遙か上へ行く力を持っていた、……というべきところか」

 かぐやは無言で頷き、次第に表情が陰っていった。その姿を見た太公望は、予想通りの展開だったのか余裕のある声色で「続けて話してみよ」と語りかけた。
 迷いの色が見えたかぐやだったが、ゆっくりとした口調で太公望に己の思いを紡いだ。

「私は仙界からお役目としてこの場所におります。ですが今……、仙界と交わした約束を放棄してしまいそうな気がして、怖いのです。深く人の子に関与してはならないという暗黙の了解を犯してしまいそうで……怖いのです」

 仙界と人界の間に揺れるかぐやの言葉を聞き、太公望はフッと柔らかく微笑むと、かぐやの体を優しく抱き寄せた。思いがけない展開にかぐやは身を固くした。

「……それでよいのだ、かぐや。我々は人の子の力を甘く見ていたのだ。まだ古い考えを持っている仙人は幾人といよう。だがそれは私たちで変えていけばよい」
「では、私は人の可能性を信じたいと思います。彼らならきっと乗り越えられると信じたいのです…」

 薄暗かったかぐやの心に、僅かな光が差し込んだ瞬間だった。






==了==(2012/02/26)
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