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「どうして君はボクの後を追ってくるの?」

 呆れたように息を吐きながら、ナタは背後から近づいてくる少女に声をかけた。
 少女は思いがけない一言に戸惑いを見せながらも、はっきりとした意思を言葉に代えて答える。

「ナタ様が危険な場所に行かないかを見るためです」

 その言葉にナタは更に呆れ、進めていた歩を止めた。強い敵と戦うためには危険を承知で、その場所に向かうことは必然だと解釈しているのだが、少女――かぐやの場合は『危険だから行ってはならない』と主張する。それではいつまで経っても自分自身よりも強い敵と会うことは叶わない。

「君が監視していても、ボクは強い奴のところへ行くよ? それとも君は死にたいの?」

『死ぬ』事に恐怖は感じない。だからこそナタは軽い口調で言葉にしてしまう。そう言われるたびにかぐやは悲しそうな表情を見せ、俯く。ナタにとってはそれが不思議でたまらなかった。何故彼女は他人が『死ぬ』事に対して悲壮をあらわにするのか。

「……ナタ様。あなた様が壊れてしまえば、素戔嗚様も悲しみますし、何より私も悲しいです……。だからこそ、危険な場所へ行って欲しくはない。そう思ってはいけない事でしょうか?」
「悲しむ? 何で?」
「こうして出会えたのも何かの縁《えにし》でしょう。だからこそ、大切にしたいのです」

 今のナタにはかぐやとの縁がよくりかいできないでいた。しかし切々とした彼女の願いは不思議と頭の中に染み渡っていくのを感じ、何ともいえない感覚にとらわれるのを覚えた。小さく微笑み、ナタはかぐやの居る場所へと歩みを進める。

「ボクの負けだよ、かぐや。今日はキミの言うことを聞こうかな」

 そう言うとかぐやも小さく微笑んで頷き、ナタの方に向かって歩いた。



 ==了==(2012/02/25)
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