とうとう鍾会が謀反を起こしてしまった。
 彼の暴挙を止めようとし軍を率いて立ち向かった司馬昭は、不覚にも敗北を期してしまう。
 総大将の司馬昭はもちろんの事、彼に従順していたお目付役の王元姫も鍾会軍によって拘束されてしまった。
 後ろ手に縄を絡めるとき、雑兵は「申し訳ありません」と頭を下げ涙を流した。昭は何も言葉を発さず、ただ黙ってされるがままに縄についた。
「子上殿……っ!」
 聞き慣れた愛おしい声が、昭の耳の奥に届き後ろを振り返ると、同様に拘束された元姫が今にも泣きそうな表情でこちらを見ていた。
「元姫、なんていう顔してるんだよ。……大丈夫だからさ、そんな表情しないでくれよ」
 昭は小さく笑いながらいつもの調子で言うが、相手は鍾会だ。今後どのような処分が待っているか判らない。
 元姫とは反対の方向へと向かっていく。離れたくない、罰を受けるならば共にありたいと願ったが、それすらも叶うはずもなく、お互い別々の牢へと投獄されたのだった。

* * *

 牢に入れられた元姫は手だけではなく、足も拘束され、逃げることが不可能な状態になった。
 監視が見ていない隙を狙って縄を緩めようと捩ってみたが、そう上手く外れはしない。
 奥歯を噛み締めていると、廊下の方から甲高い靴音が響き、こちら側に向かっているのが判った。監視役が深く頭を下げた先にいたのは、今回の乱の勝者である鍾会の姿だった。
 鉄格子の奥に見える彼の表情には、侮蔑とも優越感ともいえる笑みをこぼしていた。その顔が悔しくて、元姫は思い切り睨み付ける。
「おや、王元姫殿にはこの場所がお気に召しませんでしたか?」
 牢の扉の鍵を開け、塵を見たかのような双眸で元姫を見つめ、鍾会が可笑しそうに呟いた。
「……鍾会殿。子上殿はどこにいるの?」
 負けじと睨め付け、気丈に振る舞う。
 僅かに鍾会の眦が吊り上がり、鼻で笑い吐き捨てるように答えた。
「あなたに伝える必要なんてないでしょう」
「っ! 答えなさい!! 子上殿はどこにいるの!?」
 呆れたと言わんばかりに大きく肩を上下させると、元姫とは正反対に冷めた口調で問いに答える。
「王元姫殿がいるこの場所とは違う牢に閉じ込めています。……全く、あの方は手を焼かせる……」
 まだ昭が無事なことを知ると、元姫は大きく身体をねじらせ、手足にまとわりついている麻縄をほどこうとした。
 ――命があるうちに、早く……!
 鍾会は必死にきつく縛っている縄をほどこうとしている姿を眺め、口元を三日月のように細く歪めて嘲笑する。
「抵抗しても無駄ですよ。先程も言いましたよね? ……何故なら――」
 そう言いかけたところ、鍾会は元姫の身体を乱暴に石畳に押しつけ倒した。
「あんたと私しかいないのだからな。味方など一人もおらぬ……!」
「っ、鍾会殿……!」
 元姫は丸い双眸を更に大きくしたかと思うと、軽蔑するように眉間に皺を寄せて、眼前に居る鍾会を見つめた。
「子上殿に付いてきた人たちはどうしたの?」
 嫌な予感が胸をざわめつかせ、口の中が渇いていく。
 鍾会は更に顔を近づけ、一言一言突き付けるように最悪の事態を言葉にした。
「皆殺してやったさ! この英才教育を受けた私に粛正されていったのだ、さぞや良い冥土の土産話となっただろうな!!」
「……!! なんて、なんて惨い事を……!」
 では先程まで共に戦っていた仲間も、もしかすれば目の前で馬乗りになっている青年に殺されてしまったのかも知れない。そう思うだけでやりきれない気持ちで溢れかえった。
 元姫がやりきれない顔をするほど、鍾会は愉快でたまらないと言わんばかりに、狂ったように低く喉を鳴らす。
「そうだ、あんたのそういう顔が見たくて堪らなかった……。今から更に恥辱にまみれた顔にさせて、司馬昭殿のところへ送ってやろう!」
 そう過激な発言をした鍾会の表情は、まるで新しい玩具を与えられ、喜ぶ子供と同じ目の輝きを放っていた。
 得体の知れない寒気に、元姫は無意識に身震いを起こした。
 まず鍾会の手の平は豊満な元姫の胸部へと伸び、乱暴に鷲掴みにした。決して優しくはない掴まれ方をされ、思わず元姫は目を伏せ、行為に耐えた。
「へぇ……。じゃあ、これならどうです?」
 鍾会の顔が元姫の肩口に埋まるようにして近付いていくと、彼女の首筋に舌を這わせた。
 その行為はまるで蛇のようであり、ねっとりと絡みつき、吸い上げていく。
 言いようもない嫌悪感と鈍痛に再度、ぶるっと身を震わせた。手足を縛られているので抵抗が出来ず、彼のされるがままになっているのが何よりも悔しかった。
 もしかすると鍾会は当初からそれが目的だったのかも知れないと、今更ながら思うのと同時に、嫌悪感で思考が穢されていった。
 いつの間にか元姫の上衣は脱がされ、二つの乳房は露わとなり、桃色の頂が僅かに上を向いていた。
 首筋に与えられる刺激も増していき、次第に触れられた部分は紅い華を咲かせていく。
 どれだけ嫌だと感じていても、身体は鍾会の愛撫に悦びを覚えていた。
 その様子を目を細くして眺め、乳房の頂を指で転がしながら鍾会は侮蔑するように嗤ってこう口にする。
「感じているのか? 貴様の一番嫌な奴に犯されているというのに」
「っ! 違う!」
 精一杯の声を張り上げ否定をしたが、表情一つ変えずに鍾会は問い返す。
「違う? 違っていればここはこれほど勃ってはいないと思うがな」
 自身の言葉が正論だと突き付けるように、固く勃起した彼女の乳首を摘んで指摘した。
 元姫はただ視線を逸らし、身体と脳内の反応が正反対な事に耐えるしかなかった。
 鍾会は乳房から手を離し、指先で元姫の脇腹を沿い下腹部に辿り着いた。
 その次に彼が何を企んでいるのかを察知した元姫は、神聖な部分を鍾会に触れさせまいと細い両脚で秘部の入り口を固く閉ざし、侵入を拒絶する。
「無駄だ」
「あっ……!」