相棒(皆守と緋勇)


 あれはそう、確か転校初日のことだった。
 笑顔一つでクラスメートの心を掴んでしまった緋勇の、だが本人はそんなことには全く関心がなさそうなところに興味を抱いて、なんとなく皆守は訊ねたのだ。
 どんな女が好みなのかと。
 他意はなかったはずだ、あの時は。
 緋勇は一瞬目を丸くして、皆守にそんなことを聞かれるとは思わなかったと笑った。
 そのまま誤魔化されるのかと思った次の瞬間、緋勇が笑ったのだ。
 先ほどの笑みとはまるで違う、大切ななにかを思い浮かべたような顔で。


 ──おひさまみたいな人、かな。


 ぽつりとそう漏らした緋勇の横顔が、とてもきれいで。皆守はまぶしくて、目を細めた。




 頻繁に緋勇の口から出てくる「キョウイチ」という名前。一体誰のことなのかと訊ねた皆守に、緋勇は笑った。
 あの時と、同じ笑顔で。
「京一っていうのは、オレの親友で、相棒で? 俺の背中を預けられるのはお前だけだ、なんてことを言われたりもしたっけな、うん」
「それはまた、随分と仲の宜しいことで」
 聞いたのは自分だというのに、自分の知らない誰かについて語る緋勇が気に食わず、皆守は苦虫をかみつぶしたような表情になる。
「仲は……いい、のかな。一緒にクリスマス過ごしたりしたし。あはは」
「男同士でか?」
「そ。寂しいもの同士」
 口ではそういうものの、キョウイチとやらと過ごしたクリスマスは随分と楽しかったらしい、緋勇はどこか嬉しそうな顔をしていた。
 それがまた皆守を苛立たせるのだと言うことには気づかないまま、緋勇が言葉を続ける。
「京一って、なんていうかすごい、陽気の固まりみたいな奴でさあ。一緒にいると、どんどん明るいところへ引っ張られてく感じがするんだよね」
「明るいところへ?」
「そう。太陽の下、っていうか。まあ、イメージ的にはそんな感じ? あ、本人には内緒な」
 言うとつけあがるに決まってるから、と緋勇は釘をさしてきたが、皆守の耳には届かなかった。


 転校初日、好みのタイプを聞いたとき。
 おひさまみたいな人だと、緋勇は言った。


 それが一体、誰のことを指しているのか。
 わかってしまった皆守は、まだ楽しそうにキョウイチについて語っている緋勇から目を背けた。


【終わる】


2004 11/24