幸村くんの娯楽(立海ほぼオール)
今日も今日とて、立海大の皆は入院中の幸村くんのお見舞いにやって来ました。
いつもケーキを携えて来る真田くんは、今日もやっぱりいい匂いのする箱を抱えています。
どうやら丸井くんは、幸村くんの容態よりも箱の中身が気になって仕方ない様子です。
それに気づいた幸村くんは、真田くんから箱を受け取りつつ、後でね、と丸井くんに目配せをしました。
目配せをされた丸井くんは、何で後でなんだろうと思いながらも、大人しく待つことにしました。
「それじゃ幸村、水をかえてくるからな」
「ああ。いつもありがとう」
見かけによらず世話好きな真田くんが、綺麗なお花の飾られた花瓶を手に病室を出ていきました。
それを見送ると、幸村くんはようやく貰った箱を開けます。隣から、丸井くんが中をのぞき込みました。
箱の中には、色とりどりのケーキがたくさん詰まっていました。どれも一口大の、小さなケーキです。
それを見た幸村くんが言いました。
「これは、投げるのにちょうど良さそうな大きさだね」
「投げる?」
扉の辺りに立っていたジャッカルくんが当然の疑問を口にしましたが、幸村くんは優しく微笑むばかりで、何も答えようとしません。
それから真田くんを除く一行は、幸村くんの提案で屋上へ向かうことにしました。
水をかえに行った真田くん一人置いてきぼりですが、誰も何も言いませんでした。
「いいかいブン太、よーく見てるんだよ」
イチゴのプチタルトを手に、幸村くんがブン太くんに言い聞かせます。
ブン太くんは、今にもよだれを垂らしそうな顔でプチタルトを見ています。
幸村くんは大きく振りかぶると、屋上の端っこめがけてプチタルトを投げました。とても病人とは思えないぐらい、素早い動きです。
タルトの行方を目で追っていたブン太くんは、慌てて駆け出すと床に落ちる寸前のタルトを口に入れることに成功しました。
「あははははは。ブン太って、本当におもしろいよね」
幸村くんが、とても楽しそうに笑っています。
「幸村って、入院してから変わったよな……」
「そうですか? 彼は以前からああいう性格だったと思いますが」
柳生くんの言葉に仁王くんが頷いたので、ジャッカルくんは俺だけが気づいてなかったのだろうかと、少し落ち込みました。
【完】