09:クラス替え(跡部と宍戸)
「ふあ〜あ」
「大口あけんな、みっともねえ」
「うっせ」
不機嫌そうにこちらを見遣る跡部の足に蹴りを入れようとして、失敗する。
「避けんな!」
「俺様を足蹴にしようだなんて、100万年早えんだよ」
悔しがる宍戸を鼻で笑うと、跡部は背を向けて歩き出した。
その後ろ姿を追いかけながら、宍戸は空を見上げる。
舞い落ちるピンク色の花びらに、春を感じた。
長すぎる足で大股に歩く跡部へ追いついたのは、校門をくぐり抜けたところだった。
掲示板に歩み寄っていく跡部に、そういえば、と思う。
宍戸はすっかり忘れていたが、今日から学年が一つ上がり、二人は最高学年になるのだ。
それに伴い、クラスも替わる筈だった。
掲示板に張り出されたクラス編成表を見上げ、宍戸は自分の名前を捜す。
「りょ〜ちゃん! 喜んでええで?」
「忍足」
二人に気づいた忍足が、掲示板の前で振り返った。
その顔に浮かんだ笑みに、跡部が顔を顰める。
「なんだよ?」
「亮ちゃん、よーやっと俺と同じクラスになれたんやで!」
「お前と? つーか、亮ちゃんって呼ぶな」
「せや! 俺がこっちきてから、初めてやなあ」
そう言われれば、そうだったかも。
宍戸は笑顔の忍足に目線を合わせると、
「それが、そんなに嬉しいのかよ?」
「あったりまえやろ!」
「ふーん。じゃ、俺もいちおー喜んでやっか」
「なんやその言いぐさ!」
酷い、とわめく忍足に、宍戸も笑みを浮かべる。
その隣で、跡部が踵を返した。
「跡部?」
「あー、跡部拗ねとんねやろ。宍戸とクラス違うたから」
「あ、違うんだ」
「跡部は、階もちゃうねんで」
ふーん、と相づちを打ちながらも、宍戸は昇降口へ姿を消した跡部に気をとられていた。
まさか忍足の言うようにクラスが違うぐらいで拗ねている訳ではないだろうが、何か気にさわりでもしたのだろうか。
「宍戸? 教室行かへんの?」
「あー。俺、ちょっと跡部のとこ行ってくる。あ、忍足、ちょっと頼まれてくんね?」
「なんや?」
「ジローが、起きなくてさ。跡部んとこの車で、もーすぐ着くと思うんだけど」
「教室連れてけばええねんな?」
頼む、と告げて宍戸は昇降口へ走った。
その後ろで、忍足が「宍戸が甘いんは、ジロちゃんに限ってのこととちゃうねんなあ」などと苦笑していたことを、宍戸は知らない。
【完】