25:笑顔 (ジローと宍戸)


 ジローは、寝てる時以外はいつ見てもにこにこ笑ってて。
 見ているこっちまで嬉しくなるような気がして。
 俺は、ジローの笑顔が大好きだった。


「ジロー?」
「……亮ちゃん?」
「何、やって……、大丈夫か?」
 校舎裏の木のそばに横たわっているジローを見かけ、また昼寝してやがると近づいてみたら。
 どうやら、違ったらしい。
「おっは〜」
「……それ、どうしたんだ?」
「んっとねえ、階段から落ちた」
 制服の袖から覗くジローの腕は、すりむいたのか血がにじんでいる。
 怪我をしたというのに、ちっとも気にせず笑っているジローに、俺はなんだか腹が立って咎めるような口調で言った。
「ばか、手当とか、せめて水で洗うとかしろよ!」
「ん〜、めんどくさくって」
 へらっと、いつものように笑うジロー。
 笑ってる場合かと、頭を小突く。
 それでもまだ笑っているジローに、俺はいい加減呆れてため息を吐いた。
「なんだって、お前はそう笑ってんだよ」
「え〜? だって亮ちゃん、俺が笑ってるのが好きなんでしょ?」
「は?」
「亮ちゃん言ったじゃん? ジローが笑ってると、こっちまで楽しくなるって」
 そういえば、以前口にしたことがあったような。
 俺が首を傾げていると、ジローはだからだよ、と言って笑った。
「亮ちゃんが嬉しくなるように、俺は笑ってるの」
「ジロー……?」
「亮ちゃんが嬉しいと、俺も嬉しいから」
 だから、笑ってるんだよ。
 そう囁くジローは、やっぱり笑顔で。
 俺の大好きな、あの笑顔で。
 喋ったら涙がこぼれそうになって、俺は一言だけ呟いた。
「ばーか」
 俺が好きなのは、ジローの笑顔じゃなくって、ジロー自身なんだってことに。
 そのとき、初めて気がついた。



 【完】



2003 11/25 あとがき