「ほら、シンジ」
いつもの調子で何気なく目の前に差し出されたものを、荒垣は一瞬認識できなかった。
「……なんだ?」
「コンビニで売ってた飴だと。あいつがくれたんだ」
指差された方を振り返れば、少々鬱陶しい髪型の下級生の後姿。
俺ももらったっすよー、とソファで順平がくるくるとその小さな棒のついたキャンディを回している。
「俺のはプロテイン……じゃなくてプリン味だ。順平、お前のは?」
「コーラっす。あいつ、他人の好み何気に知ってますよね」
「…………」
数秒黙った後、荒垣は素早く包み紙を剥いて飴をくわえこんだ。
「あ」
そろって真田と順平の声。
「なんでそんなにがっついてるんだ、シンジ?」
「うるせえ、別にいいだろ」
「? ふうん」
とりあえずは納得した風な真田だったが、「ああところで」とわざわざ話を蒸し返してきた。
「シンジ、お前のは何味だった?」
ほらきた。
「……知るか」
「いや、荒垣さんいま口の中に入ってるじゃないっすか」
「知るかってんだ」
「いやだって」
ほら、と続きそうなのを睨みで止めた荒垣だったが、敵はまだもう一人いた。それもすこぶる厄介なのが、だ。
「ん?」
いつのまにか足元に屈まれていて荒垣はぎょっとした。
「アキ! てめえ、なにやって……」
「いや、なにか落ちていたから」
拾ったんだが、と言ってそれを見て、真田はくるりと目を丸くしてみせた。
「苺ミルク味」
はっきりと、大きな声でかつぜつ良く真田が言ったとたん、順平が「へえっ」とすっとんきょうな声をあげた。
「……苺ミルク」
「そうか、そういえばシンジ、昔から苺が好きだったな。ほら、デザートのときはいつも練乳がないと嫌だって駄々こねて。はは、一回どうしてもないってときは大泣きして一晩中俺がなぐさめた」
と、真田の言葉は中途半端に途切れて空に浮いた。
「食らうかあっ!?」
そんな声と共に荒垣が繰り出した頭突きを食らって。
ごつん、と鈍い音がして真田は大の字に床に倒れる。ひええええ、と順平。
「……痛いぞシンジ!」
「うるせえ!」
おまえより俺の方がよっぽど痛い思いをしただろうが、という怒鳴り声に、ちょうど外から帰ってきたゆかりと風花がびくりと体を揺らした。



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