四時限目の終了チャイムが鳴ると同時に望月は席を立つ。もはやトレードマークとなっている笑顔を浮かべて、宮前の机に一直線。 「宮前くん!」 「ん? ああ、望月」 どうした?問いかける宮前に、望月は笑顔のまま答える。 「あのさ。昼休み、なにか予定あるかな」 「今のところないけど」 「それじゃあ、もしよかったら僕と一緒にお昼ご飯にしない?」 屋上で!と元気よく言う。宮前は突然の提案にしばし目を丸くしていたが、薄く笑ってうなずく。 その騒ぎを聞きつけたのか、順平もやってきた。 「なんだよなんだよ、オレっち抜きで楽しそうに相談しちゃって! 俺も混ぜて混ぜて!」 明るい声に、宮前と望月はそろって目を丸くしてから、まったく同じタイミングで噴き出す。 「うん、順平も一緒に行こう!」 「そうだな」 「よっしゃ!」 そうと決まればと順平は後ろのドアへと向かう。その背中に宮前が声をかけた。 「順平。そっちじゃない」 「あれ?」 首を捻った順平に、またもふたりはそろって噴き出した。 「わあ……」 屋上のドアを真っ先に開けたのは望月だった。びゅう、と吹き込んできた風に片目を閉じて乱れた髪を手で押さえる。 「風が強いけど空がとっても青いね。すごくきれいだよ」 望月はやたらと新しいものに興味を示す。未知なる世界に憧れる子供のように。 その瞳は空の色に似ている。そう、宮前は思ったけど口には出さないでおいた。 「この季節になるといないんだね、人。穴場なのかな?」 「そーだなー。肌寒くなってくるし、なかなか人も来ねえところだし」 「そうなんだ!」 感心する様子を見せて、望月は周囲をきょろきょろと見回した。ある一点を指でさす。 「あそこにしようよ。ちょうど三人座れるから」 確かにそこには三人が座れるスペースがあった。宮前と順平はうなずくと、望月の後に続く。 「順平、またやきそばパン? ほんと、好きだよねえ」 「おまえだってまたメロンパンだろ。飽きねえの?」 「飽きないよ。順平と一緒」 「で、静は……」 がさがさと購買の袋から取り出されるパン、パン、パンに望月と順平は絶句する。 「宮前くん、それ」 「かにパンとあげパンと三色コロネとカツサンド」 なにか変だろうかという顔でふたりを見つめる宮前。順平は額に手を当てて空を仰ぐ。オーマイゴッド。 「おまえほんと食いすぎ! どんだけ胃袋キャラなんだよ!」 「本当はやきそばパンも買いたかったんだけど。売り切れてた」 「よかった! ほんとよかった! 俺のオアシスのやきそばパンまで奪われたらどうしようかと」 「あはは、おおげさだよ順平」 「おまえはまだこいつの恐ろしさを知らないだけだって!」 きょとんとする望月。 「そうなの?」 真面目な顔で聞いてくるから、宮前も真面目な顔で答えた。 「俺なんて普通だと思うけど」 「普通じゃねえ―――――!」 まるで即興の漫才のようなその光景に、たまらず望月が笑い始める。あはは、と笑い声が響いた。 「順平と宮前くんって本当に仲がいいんだね」 その言葉にやきそばパンを齧っていた順平が望月の方を見る。 「ふぁにいってんだひょーじ、」 「いやわかんないから順平。とりあえず口の中のものを全部飲み込んでから喋ってくれ」 順平はもごもごと口を動かすと、ごくりと喉を鳴らした。そして話し始める。 「なに言ってんだよ綾時、おまえだって立派な俺たちの友達だろ」 一瞬、望月はブルーの瞳を見開いた。それからどこか複雑そうに微笑んで、うん、とつぶやく。 「ありがとう順平」 「俺、礼言われることなんかしたっけ?」 なあ静、と振ってくる順平に、宮前は笑顔を返した。 「相手の好意は素直に受け取っておくべき、じゃないのかな」 そっか、と順平はうなずく。 「とにかくおまえと俺たちは友達だ。困ったことがあったら何でも相談してこいよ」 胸を張って言い切った順平を見て、宮前はかにパンを齧った。 順平はお気楽なように見えてひどく責任感が強い。一度やるといったことはやる。あきらめない。今時珍しい日本男児だ。 ……まあ、ちょっとヘタレている時もあるけれど。 もさもさとメロンパンを齧り始めた綾時に向かって、宮前はつぶやく。 「俺のことも頼っていいからな。できることならするから」 その言葉にまたも綾時がブルーの瞳を見開く。気のせいか、やや頬が赤い。 「う、うん……」 うつむいた綾時に、順平が怪訝そうな顔をする。 「なんだ綾時。熱でもあんのか?」 「うっううん! なんでもない!」 慌ててそう言った綾時は、首を左右に振った。マフラーが揺れる。 「お」 順平が手をかざして言う。 「なんか風がずいぶん強くなってきたな。早いところ食っちまって、教室戻ろうぜ」 不意に突風が吹く。その拍子に順平の帽子が飛ばされ、彼は慌てた声を上げた。 「ちょ、俺の帽子!」 小走りに追いかけていく様子を見て、宮前と望月は顔を見合わせて、笑った。 BACK |