「ねえ宮前くん、僕のどこが好き?」
放課後、図書室でちょっとした調べ物をしていた宮前は不意にささやかれた言葉に顔を上げた。いたずらっぽく微笑んだ望月は楽しげだ、心底。けれど困らせてやろうかだとか。そんなことを思っているわけではなくて、ただ純粋に確かめたいだけなのだろう。
宮前はシャープペンシルをくるりと回して、天井を仰いだ。しばし考える。望月はそれをわくわくと待っていた。
「……泣きぼくろ」
やがてぼそりと宮前が言った。へ、と望月がきょとんとした顔をする。
「それって、これのこと?」
指先で示してみせるのにうなずく。そう、それのことだ。
「そっかあ。いやあ僕もね? 自分でも思ってたりするんだー! えへへ、宮前くんてばお目が高い」
「まだある」
浮かれた望月に、宮前は待ったをかけた。へ?と望月。
今度は語尾にクエスチョンマークがついている。
「まだ?」
「ん」
うなずいて、宮前はぼそりと言った。
「……でこ」
「え、でこ?」
でこってここ、と言いながらあらわになった額をぺたぺたと触ってみせる望月。目を丸くして、不思議そうに首をかしげる。
「なんで?」
「形がいいし、なんか触ったらすべすべしてそうだから。前から思ってたんだけど望月って肌、きれいだよな」
「そ、そうかな? 宮前くんもきれいだよ?」
「サンキュ」
「どういたしまして」
ぺこりと頭を下げる望月。宮前も同じく。そして先に顔を上げたのは望月だった。えっと僕はねえ、と言いかけたところを、続いて顔を上げた宮前が制する。
「望月」
「え、なに?」
「まだある。だから、望月の番は俺のターンが終わってから」
「ターン……?」
ブルーの瞳をぱちくりとさせた望月にはかまわず、シャープペンシルを机の上に置いて宮前は細い指先を折り折り抑揚なく数えだす。
「髪。眉の形。唇。着るもののセンス。喋り方。笑い方。元気なところ。甘いものが好きなところ。女の子にやさしいところ。へこたれないところ。ちょっと馬鹿なところ。それから…………」
「ちょ、ちょっと宮前くん! 宮前くんったら!」
とくとくと並べ立てる宮前に、慌てて望月が待ったをかける。それに先程の望月のように、宮前は首をかしげてみせた。
「なに」
「なに、って、その……」
「ああ、そうだ」
手をぽんと叩いた宮前と、望月はつい目線を合わせてしまう。そのブルーの瞳に狙ったかのように涼やかに笑いかけ、宮前は望月の顔を指差した。
「大事なとこ忘れてた。その目、俺、すごく好きなんだ」
「…………ッ!」
元々わずかに赤かった望月の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。わけのわからない唸り声を上げ、頭を抱えた望月は机に突っ伏す。 艶のある黒い髪の隙間からのぞく耳まで、真っ赤だった。
「望月?」
どうしたと。
問いかけてくる声に何とか顔を上げた望月は眉間に皺を寄せ恨めしそうに宮前を睨む。
???
クエスチョンマークを三つ、きれいに頭上に並べた宮前は、また巣篭もりするようにマフラーに顔を埋めてしまった望月を見つめる。
「悔しい……」
「なんで」
「教えてあげない」
ふてくされたような声。ちろりと上目遣いに宮前を見た望月は、ずるいよ、などと意味不明の言葉をもぞもぞとつぶやいていた。
「望月」
「なに?」
「今度は望月の番だろ。俺の好きなところ。どこ?」
さらっとたずねた宮前に、望月はぽかんとした顔をする。よくくるくると表情が変わるなあ、と宮前が思った時、

「全部っ!!」

しん、と静まり返った図書室、奥まった場所ではあるが大声で叫べばその声は当然のように響き渡る。
勢いに瞠目した宮前から視線を外し、ぷいとそっぽを向いて望月はいっそう深くご自慢のマフラーに顔を埋めた。



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