「宮前くん宮前くんっ」
休み時間、それなりに騒々しい教室の中でさらに騒々しい人物が宮前の元に駆けてきた。だが不快ではない。宮前はイヤホンを外して、望月が机まで駆け寄ってくるのを待つ。
「お昼まであとちょっとだねっ」
「ああ、だな」
「そんなときって少し小腹が空いたりしませんか?」
にこっ、とひまわりのような笑顔で(秋なのに)望月は笑う。細身のくせをしてグルメキングや早瀬と互角に接戦する宮前は普通にうなずいた。
そうするとぱああっと望月の笑顔の出力が増す。ひどく、それはまぶしい。
「えへへへ、あのねっ、あのねあのねあのねっ」
目に見えて忙しなく望月はポケットを探りだした。ズボン、胸元、マフラーまでいじくっている。何を探しているのかはわからないが、さすがにそこにはないだろう。
「はいっ!」
明るい声。
ようやっと見つけだしたらしい開けた袋を、望月は宮前に向かって差しだした。
「―――――?」
そこには時間外れの星々。赤、青、黄、緑にそれから白。
「ほら、巌戸台のおじいちゃんとおばあちゃんのとこね、行ってきたんだよ。そしたらくれたんだ」
綾時ちゃん、と呼ぶ優しい声を思いだしたのか望月は嬉しそうに笑う。宮前にいつも菓子パンを渡してくる老夫婦は望月にちょっと今回変わったプレゼントをしたらしい。
星の形をした可愛らしい、それは金平糖。
「きれいだよねー、かわいいよねー。見てるだけで僕、にこにこしてきちゃうよ」
その顔を見て宮前は、ふ、と口端を持ち上げた。不思議そうな反応に向かい“俺はそんな望月を見てると同じ気持ちになる”と答えた。望月はきょとん、として。
「へへへ」
嬉しそうに、笑った。

「はい、宮前くんのはこれね」
机の上に広げた袋からつまんで渡されたのは青い星。自由に選んで!と来るかと思っていた宮前は不思議そうな顔をする。金平糖は別に色が違うからと言って味が変わるわけでもないのだが。
「なんで?」
「ん?」
「なんで俺に、これなんだ?」
望月は二度目きょとんとする。そして当然のように。
「だって、青は宮前くんの色でしょ」
言ってにっこりと、笑った。
宮前は軽く瞠目する。にこにこと微笑んでいる綾時をじっ、と見上げて。
「あっ」
ぱっと素早く動いた宮前の動きに望月が声を上げた。丸く開いた口と目。
「―――――」
「―――――」
「―――――」
「―――――なんで?」
僕の選んだの、やだった?
少ししょぼんとした望月に、宮前はポリポリと音を立てながら言う。
「いや、別に嫌じゃなかった」
「じゃ、なんで」
「これ」
まだまだ色とりどりに転がる中から、宮前は口に放り込んだ一つを指差した。
黄色い星、金平糖。


「これ、綾時の色だと思ってさ」


だから、と言いかけた宮前は望月?と呼びかける。
耳と頬が赤くなった望月に。
「し、し、し、し、し、」
「死?」
「静くんの、僕殺しっ!」
言うと両手をぶんぶん振り回し、望月はがたんと大きく音を立てて席に座ったままの宮前に抱きついた。物騒な言葉に、教室中の視線が集まる。
「おまえ殺し?」
「うんうんうんうんっ!」
「俺が?」
「うんうんうんうんっ!」
「―――――」
宮前は、がばっと離れた望月を見て。
「……それ、言われて悪くないな」
普段とは幾分か柔らかな顔で、笑った。
「静くん、静くん」
そんな宮前に望月が宮前に向けて口を雛鳥のように開ける。
宮前はそれを見て。


くすりと笑うと自分の色だと言われた、青い星を望月の口に放り込んだ。



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