「……ジャミルには才能ないわね」
オーバーなリアクションと共に吐き出された言葉は、ジャミルを落胆させるには充分過ぎる言葉だった。
「何が足んねーんだよっ!!」
子供のように駄々をこね喚き散らすリーダーに、アルベルトは閉口していた。
先ほどダメ出しをしたミリアムと同じくらいの大袈裟ジェスチャー。その落胆ぶりに、ただおろおろと取り乱すことしか出来ない。
「一体何が足りないってんだよっ! それともアレ? ケチな盗賊風情が術なんて覚えんなっつーカミサマのお言葉か!?」
「アハハハっ! んなことないわよー♪ そんなこと言ったらあたいだってダメね。この魔女ミリアムさまだって竜のたまごで一時期生計立てたことあるんだから♪」
「んじゃどうして!!」
「才能の問題じゃないのぉー?」
ケタケタと笑うミリアムを尻目に、ジャミルの機嫌は恐ろしく下降している。正反対な空気を醸し出しているのに、周りの大人は口出ししようとしなかった。
日が暮れたからか、先ほどより賑わって来たパブ。
皆陽気にグラスを傾け騒いでいる。頬を赤くし、高らかな笑い声をあげる酔っ払い同士の小競り合いだと割り切ってしまえばいいのだろうか?
…それは違う気がした。アルベルトが持っている正義感がそれを許さない。
「お二方とも…少しは…落ち着…」
「煩いっ!!」
サラウンドで牽制されれば、流石のアルベルトもそれ以上口出し出来なかった。
眉をはの字に曲げて黙り込んでしまったアルベルトに、横で飲んでいたシフが溜息と共に慰めの言葉を口にする。そんな2人の姿などまったくお構いもせず、ジャミルはグラスをテーブルに叩きつけ、その場に突っ伏してしまった。
「しっかし何でだろーなー」
「ジャミルのやつ、最近知力の上がりはいいじゃねぇか。もともと覚えも悪かねぇのにどうして…」
先ほどまであびるほど飲んでいたホークはようやくもの足りたのか会話に参戦して来た。その手にはまだ大きなジョッキが二つ握られたままだ。
蓄えた髭についた白い泡を拭いながら言葉を紡ぐ。
髭を弄りながら何の気無しに呟いた言葉に、笑っていたミリアムが口をつぐんだ。軽く目を見開いた後、溜息と共にシニカルな笑みを作り出す。
「はっはーん。そういうこと…ジャミル、アンタに足りないものが分かっちゃったわよ」
「マジかよっ!?」
テーブルを叩いて身を乗り出すジャミルの鼻先に、ミリアムは人差し指を突き付けてにやりと笑う。
「アンタに足りないのは【愛】ね!」
「な……」
ずばりと言われた言い訳できない物言いに、ジャミルは目を見開く。強張った体は硬直したまま動かないようで、乗り出したままの形で固まったままだ。
指摘したミリアムも側にいたシフやアルベルト、ホークも一様に、目を見開いたままのジャミルを凝視していた。
「ちょっと…そんなに傷付くことじゃないって! あたいだって攻撃のが得意なんだから! 人には得意不得意なものが…」
あまりに動かないジャミルに狼狽し、ミリアムは言葉をまくし立てる。あれこれジャミルが気に入るような褒め言葉を並べ立ててみるが、固まった本人は動く兆しは見られない。
「ど、どうし…」
「……ジャミル」
空気を割って滑り込んできたのは、一人カウンターで飲んでいたグレイの声。
柔らかなバリトンは、慌てふためいたその場の空気すら静める。
「…んだよ」
先ほどから全く応対しなかったジャミルの声。静か過ぎる声色に、向かい合っていたミリアムは小さく戦いた。
「…来い」
そう言うや否や固まったままだったジャミルの頭を抱え込んで、グレイはずるずると引っ張り入口まで歩を進めた。
間髪入れずに頭を抱えられたジャミルは、グレイに抵抗できずに為すがまま引きずられていく。
そんな2人の姿を仲間たちは皆に呆気に取られ見つめていたが、アルベルトだけは一足先に正気に戻り酒場から出ようとする二人に声をかけた。
「グレイさんっ! 何処へ行かれるのですかっ!?」
パブから出て行こうとするグレイの足がその問いかけに応じた。ゆっくりと上半身をねじりパブの奥を見つめる。周りの客もちらりちらりとグレイ達の動向を見ていたが、グレイもアルベルトもお構いなしだ。
アルベルトは声を張り上げ、グレイは張り上げることもなく周囲に自分の意思を伝える力強い言葉を投げる。
「愛を教えに行く」
「はいっ!?」
相変わらず頭を抑えられたままのジャミルは、地面を見つめながら染まる頬をどうにかしようと必死に自分と戦っていたが、それも2人はお構いなしだ。
「な、な…何を言ってらっしゃるんですか!! 私をそうやってからかうのはお止めくださいとあれほど…」
「冗談なものか…行くぞ」
「なーーっ!! 俺はいやだっ!! 助けろアルベルト〜〜〜!!!」
飄々とした態度を崩すことなく、表情は変わらず。
端正な顔をゆがめることもせずに、爆弾を残して去っていくのは灰色の髪を持つ男。
そんな男に引きずられるように拉致されたのは、翡翠色の髪を持つ男。
そして、取り残されたのは…。
「……姉さん、私は…どうすれば良いのでしょう…」
蜂蜜色の髪を持つ男は、染まる頬を両手で押さえ、力なくうなだれた。
知力ばっかりあがる(笑)回復役ジャミルに閉口した時に思いついた話です。
愛が足りません(笑)
拝啓姉さん。そんなデパート物語を髣髴させる彼です。
ようやく2週目を始めました記念でアルベルトでばらせてみました。
『愛を教えに行く』という言葉と『姉さん…』という言葉が使いたいが為に書いたようなお話でした。
『【愛】の才能』