――――鎌倉の某所にて

大和鳴女(やまとなきめ)はタロットを用いて人を心の迷いを晴らす占い師。
一年前から鎌倉の山奥にひっそりと建っている【亡奇迷館(ナキメイカン)】に
久木瑪瑙(ひさぎめのう)という青年と一緒に移り住んできた。

鳴女は外見とは裏腹に古風な話し方をするが、真正直な青年であり
その青年に寄り添うように傍にいる瑪瑙は大変穏やかで優しい青年であった。

そんな鳴女の元に足しげく通うのは一人の少女だった。
彼女の名は仙台奈々香(せんだいななか)と言い、鳴女の初客であったが
今は鳴女を好いている一人の女である。

いつものように接客を終え、奈々香と共にお茶を楽しんでいると
ふらりと着物をまとった青年が現れた。
その青年はぼさぼさの黒髪をかき混ぜながら鳴女に向かって罵倒を浴びせる。
自称小説家の吉辺拓朗(きちべたくろう)は鳴女ととことんウマが合わずこうして
顔を合わせては子供じみた喧嘩に興じるのであった。

拓朗がいなくなった折、奈々香が冗談交じりに鳴女に言葉を投げかけた。

「ねぇねぇ、鳴女ちゃん。…拓朗さんって、どこに住んでるのかな?」

もともとこの土地に住んでいる奈々香ですら知らない拓朗の家。
鳴女は興味がないと話を打ち切ろうとするが奈々香は話し続けた。

「もしかしたら【東雲館(シノノメカン)】に住んでるのかもだよ!」

東雲館という聞きなれない名前に首をかしげる鳴女と瑪瑙。
そんな2人を見て、奈々香は得意げに話を続ける。

「東雲館にはね、女の子の霊が住んでいるって噂なんだ、噂なんだよっ」

江戸時代からある幽霊屋敷で数々の噂が絶えず近隣の住民は決して
近寄ろうとしないらしい。
亡奇迷館よりも山奥にあるらしく、年代も古いという噂だった。

「雨の日にね、現れるんだって。男の人だけを狙うの」
「どうしてかね」

突然窓を叩く音。
振り向けば雨が窓を叩いていた。
急に振り出した雨に静まり返るホール。

「…お父さんになってくれる人を探してるらしいよ」

降り止まない雨
雨は窓を屋根を叩き、静寂を生む。

「ふむ、してその少女は男を抱きこんで何をするのかね?」
「なんでもね…」



「死ぬまで、ずっと傍に置いておくんだって」




――――雨は一人の少女を生み出した――――


「志乃のお父さんになってくれますか?」


――――彼女が生まれたのは必然
――――彼女がそこにいるのもまた必然


――――彼女と出会うこともまた 必然――――


―――― 消えることのない傷は 連鎖する ――――



逃れられない苦しみに 人は罰を受ける