呼吸をすることだけは完全に赦されていた。そうしなければ痛みを感じることが出来ないのだから仕方ない。殴るという行為は、痛みを与えるための手段にすぎず、目的には成りえない。致死量の半分にもみたないくらいの血がエースのこめかみあたりからゆるゆると溶け出すように流れ出す。唇からは赤と透明のまざった液体がだらしなく零れる。痛みに瞼が閉ざされるけれど、時折それを跳ね返して、エースは目を見開き、彼を殴って蹴って罵倒しているブラッドの表情を盗み見る。
 そして思う。どうしてそんなに哀しい顔をしているんだろう。痛みを与えられているのはエースであってブラッドではなく、そしてそれは互いが心の底から望んでいるからこそ成立する関係なのだから、もっと楽しそうな顔をすればいいと思う。そんな哀しい顔をしていたら、まるで、その手が僕を救うとも知らずに、強制されて痛みを与えているだけみたいじゃないか。


その手が僕を救うとも知らずに

(僕を救え)




(2008/03/01)
サディスティックアップル
little finger cabinet