彼の主人は身体が弱い。いつも顔色が悪くて、すぐに倒れるし、血を吐くことは日常茶飯事。それでも病院に行くことを拒否するし、市販の薬すら飲んではくれない。
 彼の主人は偏食が激しい。栄養が偏るからとこちらも頑張って工夫をしてみるものの、嫌いなモノは絶対に口にしない。基本的に野菜は食べないし、魚は嫌い。肉はそれなりに食べるけれど、ほうっておくと炭水化物しかとらない。
 彼の主人は不器用だ。好きな少女をいつも傷つける。上手な愛し方を知っているくせして、それを実践することが出来ずに傷つけてしまう。傷つけたことをわかっていないときもあるけれど、傷つけたとわかってしまうこともあるから、過去の自分にひたすら嫌悪する。
 彼の主人は卑怯な強がりだ。そうやって自分を嫌って、色んなものから逃れたくって、もがきたいと思うのに、弱すぎる故にもがくことすら怖がってしまう。それなのにあの少女にいいところをみせたがる。
 彼の主人はつまり、とても愚かだ。


「グレイはどうしてナイトメアに仕えることになったの?」

 何も知らない少女がある日、何もわからずただ純粋な気持ちで尋ねる。彼はただ薄く微笑んだ。
 きっと彼女にはわからない、彼がそれでもあの人に仕える理由。

「成り行きだ」

 出会ったのは偶然、若しくは必然。
 誰にも必要とされず他の誰かでもよかった彼という存在。そんな彼がなければ、きっと生きていけないあの人は成り行きとして彼に依存する。依存のその先、突き詰めればゆるぎない愛というその結果。ほしかったモノを手に入れた人間が、どうしてそれを手放すというんだろう?


ひとさじの愛をください

(それで満足するから)




(2008/03/01)
Alkalism
little finger cabinet