スペインがボロボロになって帰ってくることが、多くなった。

「ばーっかじゃねーのお前」
「うっさいわ。いいか、男にはなぁ、負けるとわかっててもせなあかん戦があんねん」

ケラケラとロマーノが嗤う。む、とスペインが顔をしかめて、それだけを返すと、足をひきずって、ロマーノの前を通り過ぎていった。その背中を、ロマーノはじっと見る。
いつも自信たっぷりに、堂々と歩いているスペインが、今はどうだ、歩くことすら苦痛になっているように見える。もうロマーノは笑えない。胸がちくりと痛む。スペインがどうしてそうやってボロボロになるのかわかってしまったロマーノは、もう笑えない。

(なんで、俺のためなんかにそんな傷つくんだよ、ばか)

ふらりふらりとスペインは歩いていく。その背中を追えないロマーノ。それはスペインが傷ついていることを知っているから。
スペインはロマーノを見ない。それはスペインがロマーノが傷ついていることを知らないから。

「………スペイン、」

知らないんだ、スペインは。スペインが自分のために傷つくことがロマーノにとってどれだけ苦しいのかを。

「……どうしたん、ロマーノ」

スペインは振り向く。彼が浮かべているのは、笑顔。その、陽だまりを泳ぐような笑顔が、ロマーノはたまらなく好きだった。好きだったのだと、改めて今、気づかされる。ちくしょう、お前のその馬鹿なとこだけは、やっぱり大嫌い。
ロマーノはスペインに駆け寄る。そしてそのままスペインの身体にぎゅう、と抱きついた。スペインが息をのむのがわかった。何かいわれるのが怖くて、スペインの顔を見るのが怖くて、ロマーノはスペインの身体に顔をおしつける。スペインの肌から、硝煙の匂いがする。鼻の奥がつん、と刺激される。泣きそうになるのをぐっと堪える。泣くな、だって、ロマーノよりもきっとスペインのほうが痛いに決まってる。

「負けたって、別にお前、関係ないだろ、だって、俺がいなくなったらいい話じゃんか」

それなのに、スペインが、ロマーノの頭にそっと手を置いて、優しく撫でたりするから、やっぱりまたロマーノの涙が溢れてきそうになる。唐突に優しいところも大嫌い、でもそれ以上に、大好き。

「あのなぁ、俺、ロマーノがいなくなったら、どうやったっても生きていけへんもん」











 嫌 い 嫌 い 嫌 い 、 大 好 き








(2007/07/14)