瞬間、怒号のような喧噪は何処かへゆき、重く垂れこめた灰色の雲からわずかにさしこむ日の光も急に消え果て、昼間であるはずなのに新月の夜のような薄い布に五感が包まれた。そのヴェールの向こうの世界では時間がとまったかのように全ての物体がぴたりと静止していたが彼女が着ている黒と赤の着物の袖が唯一命をもっているものであるかのようにはためいていて、まるで凪の海を泳ぐ蝶の羽みたいに見えた。かくもうつくしい蝶をまとっている彼女の白い手が握り締めているのは、その細いラインにおおよそ似つかわしくない、非情なまでに重厚な、銃。銃口はもちろん彼に向けられている。
 そして光秀は彼女の指が引き金を引くのを見た。次に、破裂音よりも先に弾丸が空気を切り裂いて発射されるのを見た。黒い塊はまっすぐにこちらへとやってくる。見えているのだから避けられるのが道理であろうに、まるでピンでとめられているかのように身体がぴくりとも動かない。目をそらすことすら許されず、否応なしに彼女の今にも泣き出しそうな苦悶の表情が瞼に焼きつけられる。
 出来たら最期に貴女の笑顔を見てゆきたかった、とそこまで考えて、弾丸に胸を貫かれた光秀の思考が真っ白に、燃えた。


ラストスマイル



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(2009.07.18.)
(2の濃姫のストーリーモード、何回やっても泣いてしまう)