「やっぱり俺、あんたのこと割と好きだ」
唇が離れた途端にそう呟いた慶次の瞳にきっちりと光秀の顔が映っていたせいで、光秀は彼の言葉にぐらりと揺れ動いた自分の表情を見せつけられる。
「私は大嫌いですよ、貴方なんて」
 無害な痴れ者だとばかり思っていたが、ああ、なんて残酷でいやらしい男なんだろう。もう面倒だからいっそこの場で喉を掻き切って殺してやろうかとも思うのだけれど、たぶん死ぬときもこの男はそのいやらしい笑みを貼り付けたまましょうもないことを二つ三つ並べたててあっさりと意識を手放すだろうということは目に見えているから、そんなつまらないことをする気にはなれない。
「うわ、ひっでェの」
すっげぇ傷ついた、と嘯く彼の唇はしかしそのまま口笛でも吹きそうなくらい楽しそうな色をしている。そういうところがたまらなく光秀の癇に障り、苛立たせる。
 全くこの男はとにかく光秀を苛立たせるに事欠かない。想像の中で殺して見たところで、血まみれの顔をこちらに向けてさもしあわせですと言わんばかりに微笑むものだから、その想像が光秀にもたらすのは未来への期待ではなく、果てしない苛立ちでしかない。だからといって視界や思考から消し去ってしまおうと努力してもいつもそれが徒労に終わってしまうことがまた苛立ちの種になり、そうやって彼にいつも苛立たせられていることにさらにいらいらするという悪循環。
「ま、そんなところも嫌いじゃないよ」
「嫌ってくださって一向に構いませんよ」
「はは、うん、そういうとこも好きかな」
 ああ殺してやりたいとにかく彼を苦しませることのできる方法で! しかしそれが、まるで意味もなく重ねられる口づけに全てを飲み干されてしまっているかのように、どうやったって思いつかないのはどうしてなんだろう。この身体が訳もなくその口付けを求めているのも、どうして?


きっと一生憎めないのだろうね



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(2009.07.16.)
(明智の「いいでしょう、恋とやらを語ってみなさい」っていうセリフがすごい好きです)
(thank for "サディステックアップル")