嫌な予感、だなんて曖昧なモノ、別にこれまで当たった試しがなかった。だから、そう、きっとただの考え過ぎだったと後で笑い飛ばせるだろうとも思った。けれど、微かな胸のざわめきを無視することが出来ず、半ば闇雲に、藤は朝靄を掻きわけながら学園を歩いた。
 なずなの、清々とした笑顔が頭をちらつく。凪のように穏やかな微笑みを浮かべ、なずなはダリアへの想いを口にした。十代そこそこの女子高生が発したとはおおよそ信じがたいほど真っ直ぐで、それが一層藤を哀しくさせた。
 彼女はもっとありふれた恋が似合っている。お洒落な雑貨屋の軒先で量り売りされているような可愛くて綺麗な恋ではなくて、もっとささやかな恋。地味な男と堅実で着実なしあわせに満ち足りた生活が良く似合う。

 それなのにどうして君の身体はまるで凍りついてしまったみたいに冷たいのだろう。
 それなのにどうして君の唇には穏やかで満ち足りた微笑みが浮かんでいるのだろう。


僕は無力だと知っていた

(2012.01.20)(title by 星葬