君と朝食を
 カーテンから漏れるのは柔らかい朝日で、窓の向こうにはきっと青空が広がっている。テーブルに並ぶのは食パンとサラダとスープと目玉焼き、それからコーヒーと紅茶。スープから立ち上る湯気で向かい合わせに座る霧人の顔がぼやけて見える。
 ごらんください今年もこの公園では見事に桜が咲いております、とその桜が咲いたことがまるで自分のおかげであるかのように自信満々で話すアナウンサーの声をBGMに、覚醒しきっていない脳に浮かんでは消えるどうでもいいことを口にして、もう片方がそれになんとなく返事をするという、相手が其処にいて自分の事を認識しているのだという事実を確認し合っているだけに近いものを、互いがそれとなく分担して作った食事を口に運ぶ合間に行っている。そうやってぽつりぽつりと会話を交わしていると柄にもなく幸せだなあ、なんてことをしみじみと感じてしまっていたりする毎日にそれなりに満足している自分が居るのも事実だ。
「今日もいい天気みたいだね」
 コーヒーを摂取するとなんとなく目が冴える気がする。ふぅ、と息を吹きかけて一口、口に含んで、飲み込む。熱い塊になって胃に落ちていくのがわかって、響也は反射的に、ほう、と熱い息を吐いた。
 サラダのレタスをフォークに刺して口に運んでいた霧人は、口元までもっていったそれを咀嚼し終えてから応えた。
「そうですね。――最近は随分と温かくなってきたものです」
 霧人の視線が、テーブルからベランダに移る。白いカーテンがぼうっと光っているように朝日を受け止めている。その眩しさに目を細めた霧人は微笑んでいるようにも見えた。
「花見とか行きたいな」
 バターだけを塗った食パンをもそもそと噛み下す。食事にあまり頓着しない響也は、レコーディングの時期だとか、ツアー中だとか、検事としての仕事が忙しくなると朝食をこうやってきちんと食べることなんてしないし、そもそも自分の家で迎えた朝は食欲なんて到底わかなくて、大量に買い込んだゼリー飲料だとかカロリーメイトだかを適当に摂取してそのまま家を出る。
「花見、ですか」
「うん。ぼくもアニキも忙しいけどさ、そういえばしばらく一緒に行ってないなって」
それなのに、まるで、いつもこうしてきちんと食べるのが当たり前の毎日を過ごしているかのように、自然に起きて、食べて、笑っている。不思議だけれど、決して悪い気分なんかではない。
 まあつまり、愛してるってそういうことなんじゃないかと。
「そうですね。おまえと行くのもたまにはいいかもしれませんね」
「うん、絶対行こうね、アニキ」









(2008/04/12)