「オレ、男同士でセックスできるって知らなかった」
 上り詰めた熱が引いていき、ようやく規則正しい呼吸を取り戻した途端に弓彦が呟いたのは、何をどう返せばいいのか非常に困窮する、まさに彼らしい感想だった。色気や余韻などという風流なものとはおおよそ別次元で、好意的にとるならば、幼子のように純粋で素直で、愛らしくもある。しかしながら、彼のその素晴らしい純朴さに今は幼気な子供を勾引かして手篭めにしてしまったような罪悪感を覚えてしまう。後悔は微塵もしていなかったし、あさましながらも彼の初めての男になれたことは正直言ってとても嬉しかったが、どうしたものかと響也は汗で額にへばりつく前髪を掻きあげる。
「本当にオレ、何も知らなかったんだなあ………」
 独り言よりも微かな彼の声はけれども凪いでいて、つい先程交わした熱を孕んでもいなかったし、かといって深い哀しみに冷えきっているわけでもなかった。そして響也に注がれる彼の瞳も同様に、晴れた冬の日にかかる朝靄を閉じ込めたように透き通っていた。その透明な瞳から、朝露よりぬるい水がじわりと溢れ出し、既に頬に出来ていた水痕をなぞって頬からシーツへ零れ落ちる。
「ごめん、今まで気づかなかった。オレ、実はキョーヤのこと、ずっと好きだったかもしれない」



みず色のはつ恋

(2013.09.24.)