ヒビ割れて欠けた器から中身の液体が漏れていくように、心音の肉体からじわじわと自身が零れていく。けれども彼女自身が減っていくよりも遙かに多くを夕神が心音に与えるから、彼女の熱は冷めていくどころか加速度的に上昇していく。上昇。天に昇ってゆく感覚にきっと似ている、と心音は思う。呼吸が辛くて、熱くて、視界と意識が時折途切れてぼやける。意思は肉体を制御出来ず、しかし対照的に、感覚が隅々まで鋭敏になった肉体は、刺激に反応するだけの器官にすら成り果てる。自分が遠くなる。無力で幼かったせいで守ることが出来なかったものを取り戻すために作り上げた、何物にも屈さず、揺るがず、確固で強固な自身の隙間から、このまま拐われたいと願う浅はかな自分が見える。甘やかされ続けたい。全部曝いて欲しい。何もわからなくなってしまってもいいから――、なんて。こんな浅ましいことを願う自分がいるだなんて、知らなかった。

「ゆ、うがみさん、」
「あァ、辛いか……?」
「ちが、ちがいます……こんなの、知らなくて、」

 ただただ圧倒的に与えられることが嬉しいだなんて、知らなかった。



作り変えられていくという陶酔

(2013.11.18.)
(title by "約30の嘘")