もうダメかもって笑う

 千尋の指が柊の髪に触れた。柔らかい緑色の髪を梳くように撫でると、柊の表情が緩んだ。いつも笑っているように見える柊だが、この微笑みを見ると、普段のあれは微笑みなんかではないと確信する。千尋の言葉や指先が触れたことで生まれた揺らぎを柊は、はにかむことで表現してくれる。そうやって笑うとぐっと幼く見えて、風早と1つしか違わないということを改めて思い出す。
 柊はそっと千尋を抱きよせる。急に近づく柊の身体。視界いっぱいに柊の匂いが広がって、
「もうダメかも、私」
ぽつりとそう漏らした千尋が苦笑する。
 葉が太陽の光をあびて光合成をするように、千尋の身体全部の細胞が柊の温度に反応してふつふつと目覚めていくのがわかる。柊の背中に両手をまわして抱き返すと、それだけで全身で大きく深呼吸をしたかのように胸の鼓動が優しく弾んだ。
「キスしていいよ、柊」
「それは光栄の至りです、我が君」
 花びらが舞いおりてくるように柊の唇が落とされる。そのキスは、彼の髪よりもずっとずっと柔らかくて甘い。




(2008/06/29)
(title by is)