雨が、降る。ぽつぽつと。ざあざあと。ゆっくりとゆっくりと身体が冷たく、濡れていく。 十分に水を吸った髪からはぽたぽたと水滴がこぼれ始めた。真っ赤な、真っ赤な液体。髪についた紅は、もともと髪が赤い故に目立たなかったのだが、ああこうやってみるとかなりべっとりついてるんだろうなぁ、自分じゃわかんねぇけど。髪はどうにかなるけどスーツについてたりするのはちょっと面倒かな。落ちねえんだよな。見た目にはそれほどわかんねぇけど、匂いが絶対に、残る。身に着けているスーツも、雨水を吸い込んで、その重さをまし、身体にべったりとまとわりついてくる。歩くのさえもう億劫になってしまって、人通りなんてないその路地に、ぺたんと座り込んだ。ばしゃん、と水が跳ねた。もう、本当にどうでもいい、死ぬのさえも面倒で、このまま目を閉じて次の瞬間に、この身体も全部全部、液体になってしまえたらと願ってしまう。
そ、っと目を閉じた。耳のなかまで孤独がひろがって、そうしたらさらに寒くなった。このまま、何も考えないで済めばいいのに。そう思ってみると、たった1つ。たった1つだけ、思い出した名前が、あった。その名前を、まるで歌を歌うように口にしてみる。

「…………エアリ、ス」


雨が、一瞬弱まった気がした。たぶん、気のせいだろう。彼女の名前に、彼女に救われる権利なんて、俺にはきっとない。彼女に出会えただけで、もう奇跡に近いのに、救われたいなんて馬鹿なことを、考えるだけ、無駄。考えてはいけない、そう、考えては。
レノは、目をあけた。気がつくと自分の周りの水溜りだけが、うっすらと紅く染まっていた。











    紅    に    染    ま    る    、

                (「  からっぽ、だ  」)