容赦なくカーテンを突き抜けた朝日が狛枝の目蓋を刺し、ぬるい眠りからの覚醒を強制する。やわらかな風の匂いと誰かの微笑みが、水彩絵の具が画用紙の上で滲んでぼかされていくように曖昧に薄まっていく。ただ、とてつもなく幸福に満たされていたという感覚の手触りだけが指先にじんわりと残っていた。
 狛枝は乱暴に目をこすりながら上体を起こす。薄いブランケットが彼の身体を滑りシーツへと落ちていく微かな衣ずれの音が、わざわざ耳をすませなくてもはっきりと聞こえた。静かな朝だった。聞こえるのは繰り返し打ち寄せる波音と、穏やかな寝息だけ。自分の傍らのそのひと――日向がすやすやと規則正しく胸を上下させているのを見つけ、狛枝は落胆する。
「あーあ………」爽やかな朝に似つかわしくない暗澹たるため息が思わず口をついた。
 前髪を掻きあげながら無造作に立ち上がった。ぎい、とベッドが軋んで音を立てたが、日向は身じろぎすらせず、だらしなく口を開け、赤子のような寝顔でまだ夢の中。何の不安も迷いもないあどけない彼の顔に狛枝の苛立ちも失望もなんとなく何処かへいってしまって、いっそ微笑ましさすら覚えた。ほだされる、というのはこんな心持ちを指すのかもしれない。
「まったく……。最悪だよ、こんなの。ボクらはこんな生ぬるい感傷にひたるためにこの島にいるわけじゃないのにさ」
 狛枝は日向の頬に唇で触れ、そっとそう呟いた。
「ねえ、いつになったらボクを殺してくれるの、日向クン」




朝を迎えるたび、恋人になっていく
(13.03.31.)