「お前のその目が、好きだな」
互いにすれ違うまさにその時、孟徳が誰に言うでもなくぽつりと呟いたのが聞こえて、雲長は思わず立ち止まって振り返った。
 まるで、雲長がそうやって振り返るのがわかっていたかのよう雲長の方を向いていた孟徳と目が、合う。
 にこり、と少し首をかしげるようにして、孟徳は微笑んだ。
「いつだってお前の目は俺を拒絶してる。それが好きだな」
 愛の言葉を囁くように、孟徳は甘く唇を歪める。実際、孟徳にとってそれは愛の告白以外の何物でもなかったのかもしれないが、雲長には悪い冗談か何かとしか思えなかった。否、そう思いたかった。
「……戯れも過ぎると、冗談ではすませなくなりますよ」
「冗談?」
 愚かな子供の無知な発言を嗤うように、クッと喉を鳴らした孟徳は、無造作に見える動きで腕を伸ばし、雲長の胸ぐらを掴んだ。咄嗟のことで対処ができなかった雲長の身体はあっさりと孟徳に引き寄せられてしまう。
 孟徳の微笑みが視界いっぱいに広がる。彼の色素の薄い瞳に、自分の顔が映っているのが見えた。ああなんて情けない顔をしているんだろう、と思った瞬間、キスが降ってきた。唇を食いちぎって喉笛をかっさかんばかりの、獰猛な口づけ。
「俺は、俺のことが嫌いなお前が好きだよ、雲長」
 ゆるりと離れた唇の端に笑みを隠して、孟徳が言った。



アウトサイダー

(食い散らかして、いっそ最期まで)
(11.06.10.)