全寮制の星月学園には十二の寮があり、それぞれが十二星座の名を冠している。生徒たちは自分の星座と同じ名前の寮で生活をする。西洋占星術科ではない宮地は、いわゆる『星座占い』がどれほど当たるのかは正直なところあまり信用していないのだが、このシステムが上手く機能しているように見えることを考えると、同じ星座の人間は同じような性格である場合が多く、おおむねウマが合うというのは事実であるらしい。
 しかしそれも一般論である。そう願いたい。
「お、いたいた!」
 部活のあと、重たい身体をひきずるように蠍座寮へ帰ってきたら、やけにテンションの高い声に迎えられた。
「……白銀先輩」
げんなりと名前を呼ぶと、白銀は嬉しそうに笑った。
「あれ、俺の名前よく知ってるね。意外に俺も有名人なのかな」
真っ赤な髪を三つ編みにして、何処で買えるのかわからないようなメガネをかけて、首からカメラを下げて、宮地にはおよそ理解できないセンスで制服を着崩し、校内をふらふらと歩いている。おそらく白銀のことを知らない生徒は少ないだろう。そういうことに疎い自覚がある宮地ですら、その噂は聞き及んでいるのだから。
「でもそれなら話は早い」
 ニヤリ、と笑った白銀はずずいとカメラを構え、こちらへ向かってくる。
「お、俺に何か用ですか、先輩」
思わず後ずさる宮地。出来れば今すぐ走りだして白銀から逃げ出したかった。これが後輩、もしくは同学年が相手だったら、とりあえず疲れているから今度にしてくれと言って走り去るところなのだが、直接の、ではなくても一応先輩である。宮地の性格上、あまり拒絶したり反抗したりするようなことはどうしても出来ない。そういう融通のきかないところも、あの少女は好きだと言ってくれるのだが。
「いやだなあ。この俺が、何の用事があるかなんて、わかりきってることだと思うけど?」
鼻歌でも歌いだしそうなほど楽しそうに笑う白銀と対照的にいっそ怯えだす宮地。額を嫌な汗がつたったそのとき、まさか、と思いいたる。
「星月学園のマドンナ、夜久月子さんを射止めた宮地龍之介君、」ほら、こういうロクでもない予感は的中するんだ。「是非、インタビューさせてもらえないかな、って、ちょ、ちょっとちょっと!」
 考えるより先に身体が動いていた。白銀が言い終わる前に、宮地は走りだしている。
「待ってよ! こんなスクープ、俺だって見逃せないんだよ!」
 体育会系の部活に所属していないだろう貧弱な身体の何処にあるのかというスタミナを見せ、白銀がひたすら宮地を追いかけてくる。しかしつかまるわけにはいかない。宮地も部活の疲れはどこへやら、全速力で駆けだしている。
 お互いに蠍座の二人は意地を張って、食いさがることをせず、いつまでもいつまでも追いかけっこを続けることになる。


(in Winter,2010)