哉太が撮った写真は、どれもきらきらしている。風景も、静物も、生き物も、人物も、そして星空も。そして、本当に恥ずかしくもあるのだけれど、月子自身も。

「哉太の写真、本当すごいなあ」
「ん? なんだよ」

 ダンボールに囲まれた部屋で膨大な写真たちを整理している哉太の傍らで、邪魔にならないようにひっそりと一冊アルバムを開いている月子がぽつりとつぶやいた。彼女の視線が落ちた先にある写真の中に居るのは彼女自身だ。いつ撮られたのか、さっぱり記憶がない。月子の目線はカメラをとらえていないし、たぶん月子に内緒でこっそり撮影したものだろう。ああ、私はこうやって笑えていたんだ。

「……何笑ってんだよ」

自分の写真のセンスを嗤われているとでも思ったのか、すねたように哉太が月子を見た。そこではじめて、自分が笑っていることに気がつく月子。

「違う違う、ええと、――私、哉太の写真、好きだな」

何をどういえば上手く伝えられるのかわからなくて、本当に単純なことを口にした。間違っているわけではないけれど言いたいこととかなりずれている気がして、しかし一度口にしてしまえば結局のところの結論でもあるように感じられた。
 するとすぐさま哉太がそっぽを向いてしまった。その横顔が若干赤いことに気付かなくとも、彼が機嫌を害したわけではなく、単純に照れているのだということはあからさまだった。
 ふふ、と月子が楽しそうに笑う。

「きっと、……ううん、絶対、なれるよ。写真家」
「……おう」
「だから、安心して、行ってきて」
「…………月子、」
「浮気なんてしないでよ」
「しねぇよ、バーカ。するわけねぇだろーが」

 哉太が荷物をかきわけて月子の元へとやってくる。月子は手にしていたアルバムを脇に置いて、やってきた哉太を抱きしめる。
 初めて抱きしめられた時のことを思い出す。今だけ許してくれないかと苦しそうに吐き出された哉太の声は震えていた。それなのにやけにその腕に込められた力はひたむきで、ああこんなにも想ってくれていたんだ、と月子は泣きそうになったことを昨日のことのように覚えている。思い返せば、月子が自分の想いに向き合いはじめたのはあの時からかもしれない。あんまりにも真っ直ぐな哉太の想いが、月子をずっと曖昧なまま放り投げておいた自身と向き合わせてくれた。

「何処にいても、俺はお前のことしか考えらんねぇんだよ」
「私も、だよ」

 ぎゅっとでも何処か優しく抱きしめてくれる哉太の腕が心地よい。
 この腕にずっとこうして抱きとめていて欲しいとも思う。哉太の隣でずっと笑っていたい。

「……ね、アルバム、一冊預からせてくれない?」
「ん、別にいいけど……なんでだよ」
「寂しくなったら見たいの。そうしたら、きっと大丈夫だから」

月子のあんな笑顔を見つけてくれるほど、哉太はずっと月子のことを見つめてくれていた。それだけで、きっと、大丈夫。
 だけど、そんな月子に、哉太が笑った。

「ばーか。寂しくてどうしようもなくなったら、絶対言えよ。何処にいたって飛んでくるっつーの」



(2009/05/04)