実は私たち、付き合うことになりました。
 錫也と羊が少し問い詰めると、真っ赤にした顔をうつむかせつつ、月子はそう応えた。
 瞬間、錫也の脳が停止した。反射的に何かを叫んだ気がするも、実際のところ自分の喉からでた言葉がなんだったのかわからなかった。月子と、哉太が、付き合っている。言葉として耳から入ってくるのに、その意味を理解することが上手に出来ず、ただただ目の前の月子を見つめるばかり。
 随分前から哉太が月子に想いを寄せているのは知っていた。二人の傍にずっといるのに、ましてや幼い頃からずっと一緒にいるのにそれがわからないわけが、ない。彼の想いに月子が気付いていなかったということも。
 ただ、月子の気持ちは正直よくわからなかった。月子が哉太に向ける好意は、錫也に向けるそれと似た形で表わされている。しかし、彼女の心の底にあるものが何なのか、全部わかっている自信を錫也は持てていない。もしかしたら月子自身気付いていないだけで、月子は哉太のことが好きなのかもしれない。それを否定できるほどには月子を知らない自分がうらめしくてたまらない。本当は全部知りたくて、全てを暴いてしまいたくてしょうがない。そんな欲張りで浅ましい部分に、月子が気付いていなければいいなと思う。もちろん、錫也が隠そうとしている想いにも。
 錫也は、月子が好きだった。けれど、もう、それが何を意味する“好き”なのか、錫也はよくわからなかった。他の人に同じような気持ちを抱いたことがないのは事実だった。しかしだからといってそれが恋愛的文脈で云う好意であることになるかといえばそうではないだろう。ものすごく離れ難く、もうずっと傍に居たいということ。言葉に還元すればなんとなく、世間一般で言う色恋の意味合いでの“好き”であるような気になるが、哉太に対する思いを同じように言語でなぞった場合にだって同じフレーズが使えるのだから。
 たぶん、あんまりにも長いこと三人でいすぎたせいだ。三人でいることを、例えば呼吸をするのと同じように、無意識下で生命維持のために行われる行為に位置づけてしまった錫也がいけない。いまさら何をどうすればいいのか、そもそも錫也は何を望んでいるのか、そんな単純なことがわからない。
 確かなのは、錫也が、哉太も、月子も、すきなのだということだけ。

「そっか……。二人、付き合うことにしたのか。俺は似合ってると思うよ?」

(2009/05/03)