その男は全てを憎んでいた。おおよそ全て、そう、自分自身も含めて。彼が憎んでいないのはたった1つ、いや、たった1人といったほうが正しいかもしれない。ただ1人、彼という存在を縛るただ1人。彼女はあっさりと彼の元からいなくなった。死んだのだからもう会えない。彼女は彼の世界とは違う世界で創られたので、もう似たような生き物としてだって、生き返らない。
彼は寂しくて仕方がなかった。寂しくて寂しくて寂しくて寂しくて、その感情のやり場すらわからなかった。彼は1人だった。ずっと1人だったはずなのに、彼女は彼のモノではなかったというのに、彼女がいなくなったことで彼は自分の半身を失ったような空虚を感じた。
失ってから改めて深く思い知らされる自分の想いというのはこんなにも身を切るのかと、彼はとてつもなく憎しみを覚えた。もしかするとその憎しみは全部彼女に向けられているものなのかもしれない。しかし彼女はもういないので、何処か他のところに矛先を向けてしまっているのかも。考えて、その男はくつくつと笑った。
彼はよく道に迷う男だった。あまねく道は彼にとっては迷宮に等しかった。今の彼にとってはそれすらも憎らしい。いますぐに会いたい人がいるのだ。会いたい人。最期に会うなら、否、自分を終わらせてくれるのは彼であればいいと願うような人。彼は何処にいったのだろう、彼に会いたいのだ、とその男は道を歩く。どれだけ行けば彼に会えるのか、何処へいけば彼に会えるのか、どうすれば彼に会えるのか。わからないけれど彼は歩く。足をとめたらそのままひきずりこまれそうなほどの闇が頭上に広がっている。世界も、たった1人の無力な少女を亡くしたことを、哀しんでいるのかもしれない。しかしそんな世界もたまらなく憎らしい。絶望にぶち当たったならばそのまま滅んでしまえばいいものを。
ころころと不規則に表情を変えた空も、もうずっとずっと灰色のままふさがっている。
ああ、世界は終わるのかもしれない。


「世界が終わる前に死ねるかな、俺」


世界よりも早く、世界とは違いあっさりと、その男は死んでみたいと思う。死んだ先で彼女に会えたらいいけど、どうなんだろう。それは死んでみないとわからないなあと彼はやっぱり歩き続ける。













(2007/07/28)