scene3・ジローと宍戸と滝


 皆とは、駅前で待ち合わせている。そろそろ出かけないと間に合わない時間になって、宍戸はようやく着替え始めた。
 今年は海まで見に行くという。防寒対策をしっかりしないと凍え死にそうだ。
 着込んだ上にダウンジャケットを羽織り、更にマフラーと帽子を身につける。滝が、おかしそうに笑った。
「何だよ」
「宍戸って、意外と寒がりだよね」
「意外とって何だ」
 褒められているのか、けなされているのか。
 滝を促し、宍戸は家を出る。ジローは、まだ寝ているだろうか。
 ジローの家は宍戸の近所だ。無理にでも起こして連れて行かないと、後で拗ねるだろうな。
 門を閉めたところで、舌っ足らずな声がした。
「あ〜! 亮ちゃん! おめでとーうっ!」
 珍しく起きていたらしい、ジローが駆けてくる。飛びついてくるのを受け止め、宍戸も挨拶を返した。
「ああ、おめでとう。起きてたのか」
「うん! 亮ちゃんと初日の出見たかったんだも〜ん!」
「そうか」
 ぽんぽんと頭を撫で、ジローの服装をチェックする。ジローは何やらもこもことしていた。
「何だそのかっこ」
 思わず宍戸が笑うと、ジローは頬をふくらませる。
「だってー、お兄ちゃんが、あったかくしてきなさいーって」
「そーかよ」
 ジローの兄には宍戸も何度か会ったことがあるが、いささか過保護なところがあるようだ。
「明けましておめでとう、ジロー」
「え?」
 滝が声をかけると、ジローはぽかんとした顔になる。
「えー! 滝!? 何でいるのー! おめでとー!」
 きゃあきゃあとはしゃぎながら、ジローが滝に抱きついた。
「ふふ。宍戸に新年の挨拶に、ね。さっき跡部にも会ったよ」
「跡部もいたの? えー! 何で俺呼んでくんなかったの亮ちゃん!」
 ジローがぱっと顔を上げ、頬をふくらませる。
「あ? 何でって、仕方ねーだろ、アイツいきなり来たんだから」
 宍戸はそう言ったが、ジローはそれでも不満らしくぶうぶう言い続けた。
「あー、うるせーうるせー。あんま騒いでっと怒鳴られっぞ」
 何と言っても、まだ日の出前なのだ。夜更かししている人のほうが多いかも知れないが、寝ている人間もいるだろう。
 宍戸はジローの手をとって歩き始める。ジローを挟んで、滝が並んだ。
「跡部、なんかゆってた〜?」
「別に。ただおめでとうって、それだけ。ほんと、何しに来たんだかな?」
 先ほどの疑問を思い出し、宍戸は首をかしげる。ジローが、跡部かわいそー、と呟いた。
「ね、かわいそうに」
「ねー!」
 滝が同意し、ジローと二人で頷き合っている。
 何だ、この疎外感。
「だから、跡部の何がかわいそうだって? いいじゃねえか、新年をあったかい国で迎えられて」
 こっちは寒さに震えているというのに。
「そーゆーことじゃないんだよねー」
「ね」
 ジローと滝は額をつき合わせ、こそこそと話していた。

 新年早々、気分が悪い。
 それもこれも、全ては跡部のせいだ。
 宍戸は、そう思った。


【完】


BACK


2006 12/29 あとがき