・ 2月なので生徒会は代替わりしてます ・ が、守部以外の役員は出てきません ・ 『年末年始(HR)』準拠で西園寺は推薦決定済み ・ ルート固定ではなく、生徒会三人から好意を寄せられてる設定です 「西園寺先輩、リボンこれで最後です」 放課後の生徒会室。 お昼休みにスマホを凝視して頭を抱えていた守部君から「会ちょ……いえ、西園寺先輩がまた……」と聞いた私は、人手が必要ならと手伝いを買って出た。 生徒会も当たり前だけど代替わりして、引継が済んでから西園寺先輩も黒霧先輩も生徒会室に来ることはなくなった。 推薦入学が決まっていて受験勉強の必要がない西園寺先輩は手持ち無沙汰というか少し寂しそうではあったけど、それでもおうちのことで忙しいのかそんな様子を見ることも次第になくなっていった。 それなのに、今日になって急に「バレンタインにピッタリの催しを思いついたのですが、生徒会で何か企画していますか?」だなんて連絡がきたんだから、守部君が頭を抱えるのも仕方ないと思う。 それでも「目の届かないところでされるよりは……」って生徒会室を貸す辺り守部君も寂しかったのかな? 「ありがとうございます。お時間を取らせてしまい、すみませんでした」 生徒会室で西園寺先輩と黒霧先輩に手伝い申し出るとイベントで使うらしいリボンが入った箱を渡され、それをクラス毎に数えて紙袋へと移し替える。 応接用のローテーブルに置かれた紙袋の束が消え、その代わりにできた男子と女子それぞれ色の違うリボンを入れた二つの紙袋を最後のチェックをしていた西園寺先輩の所まで持って行った。 「いえ、好きでやってることですから……あの、西園寺先輩?」 柔らかな笑みを浮かべる西園寺先輩の手は紙袋ではなく私の手を取ったままで。私はそこにゆっくりと視線を落とした。 「はい。何ですか?」 「その……手を離してはいただけませんか?」 「これは失礼しました。ところで、チョコレートの準備は済まされたのですか?」 私の手をなぞるように紙袋を取った西園寺先輩はそれを確認することもせず床に置くと、また私に視線を向ける。 そっか。もうそんな時期かぁ…… 「チョコ、ですか? 友達に作るのを手伝ってほしいって頼まれたので近々買い物に行く予定ですが……」 告白するのに手作りのチョコを渡したいって友達と、彼氏との初めてのバレンタインだから手作りしたいって友達に揃ってお願いされたから何度か練習に付き合う約束はしたけど、自分のは何も考えてなかった。 私は告白とかないから、今年も斗真とかお世話になってる人に渡す用に何か作ろうかな。 そんなことを考えながらソファに戻ろうと軽く身を引いたところでまた西園寺先輩の手が伸びてきて私の手をそっと握ってきた。 「手伝い……ということは予定が決まっていないのですね? それでしたら、どうか十四日は私のために空けておいていただけませんか?」 「えっ?」 突然の誘いに思わず声が漏れる。チョコの話からどうして予定がって話になるんだろう? 「その日はお世話になっている方からご招待を受けているのですが、私一人で参加というわけにもいきませんし、パートナーとして同伴していただきたいのです」 「パートナー、ですか?」 「はい。立案者ですからイベントの様子を見に来る予定ですので、放課後まで見届けてそのまま一緒に、となりますが」 何だろう……いつにもまして、西園寺先輩の笑顔が輝いている気がする。っていうか、「招待を受けている」って「何に」が抜けてるけど、多分パーティとかだよね。 「さすがにそれは――」 「蓮様。お茶が入りました」 「おや、ありがとうございます」 場違いだと思うので。と、断ろうとしたところで私の横からスッと黒い手が伸びてくる。 ローテーブルにはいつの間にかお茶とお菓子が用意されていて、伸ばした手でさっき西園寺先輩が床に置いた紙袋を取った黒霧先輩は小さくため息をつくと私がさっきまで作業をしていたソファに視線を向けた。 「あなたも、いつもでもそんなところに立ってないで座ったらいかがですか?」 「は、はい」 黒霧先輩の言葉にプレッシャーを感じて慌ててソファへと戻ろうとすると、握られたままの手を西園寺先輩にゆっくりと引かれる。こちらへどうぞ、と案内されるがまま座ると西園寺先輩もそのまま私の隣に腰を下ろした。 「チェック完了いたしました」 最後の紙袋にクラスを書いたタグを取り付けた黒霧先輩がリストを手にソファへと戻ってくる。 私の手を握ったままの右手ではなく左手を伸ばした西園寺先輩にそれを渡した黒霧先輩は視線を下へと向けた。 見た目よりしっかりと握られてる私の手を見て顔を上げた黒霧先輩の眉間には皺が寄っている。 そんなに睨むなら、離すように言ってくれないかな…… 「あなたが蓮様の隣に立とうだなどおこがましいと思わないのですか?」 「え?」 「あなたが会場で粗相をするようなことがあれば、西園寺の家名に泥を塗ることになるということを理解して発言すべきかと」 いつもみたいに涼しい顔で「いい加減、蓮様から離れたらいかがですか?」って言うかと思っていたら、黒霧先輩は苦々しい顔で。「会場で粗相」で「発言」ってことは、断れってことなのかな? 確かにパーティなんて学校の創立記念のしか行ったことない私が西園寺先輩のパートナーだなんて責任重大だよね……黒霧先輩は自分から西園寺先輩に言えないから、私から断るよう促してるんだろう。 「黒霧。そのような言い方をしてはいけませんよ。それに今度の集まりはそう堅苦しいものではありませんし」 「いえ、黒霧先輩のおっしゃるとおり、私はそういった場は不慣れなので――――!?」 リストを黒霧先輩に返す西園寺先輩から少し離れようと腰を浮かせた瞬間、急に黒霧先輩に肩を掴まれソファの肘掛けに引き倒された。 「く、黒霧先輩……!?」 仰け反るように肘掛けにもたれてものすごく不機嫌そうな黒霧先輩を見上げると、視界の端に守部君の姿が見えた。生徒会の仕事がある守部君は少し居心地悪そうに会長席で書類のチェックをしていたけど、今はカップを持ったまま遠くを見るようにボンヤリしている。 「守部君? 仕事大変そうなら手伝おうか?」 眉間に皺を寄せて見下ろしてくる黒霧先輩と私の手を握ったまま奥に座っている西園寺先輩を避けるように身を乗り出して声をかけると、守部君はハッとした顔で私の方に視線を向けた。 「えっ? あぁ、通常業務はほぼ終わりましたので大丈夫です。そうじゃなくて、えぇっと……会ちょ、いえ、西園寺先輩がこちらに来るとなると生徒会室に西園寺先輩宛のチョコを持ってくる方がいるのではと考えてまして、そうなった場合のことをちょっと……」 「あぁ……」 守部君が心配するのはよくわかる。西園寺先輩は去年すごい数のチョコを貰ってて、それが生徒会室に山積みになっていたはず。三年生はもう自由登校になってるけど、西園寺先輩が十四日に来ることがわかってるなら前もって生徒会に預けようって考える人もいるかもしれない。 でも、やっぱり食べ物は心配だよね。 「おや、そこは私ではなく守部君宛なのでは?」 「僕はこういった行事に縁はないですから。それよりも、最近八重が子供向けの料理番組の影響なのかチョコを作りたいって言い出して……」 西園寺先輩の揶揄に首を横に振った守部君はもっと悩んでることがあると言いたげに大きなため息を漏らす。 「誰か渡したい子がいるのかな?」 「そういう感じではなくてただ作ってみたいって感じですね。興味を持つのはいいことだと思いますが、頭が痛いですよ」 渡したいから作りたいじゃなくて、単純に作ってみたいんだ。でも、テレビにしろ何にしろやってみたいって気持ちはわかる。 もちろん、湯煎でやけどとかって考えると守部君が心配するのも当然だけど。 「私、お手伝いに行こうか? チョコ溶かすのはレンジにするけど、それでもやけどが心配ならチョコペンでデコレーションだけとか、危なくないようなお菓子にすればいいと思うし」 溶けやすいようにチョコを削ったりするのは危ないけど、チョコフォンデュ用でレンジにかけるだけのやつとかチューブに入ったチョコクリームもあるから、どんなのが作りたいか確認しながら危なくなさそうなのを選べばやえちゃんでも大丈夫じゃないかな。 「それに、八重ちゃんに会いたいし」 「ありがとうございます。八重も喜びますよ」 友達の手伝うときに八重ちゃんもうちに呼んでもいいけどそれだと守部君が気にしちゃうだろうし、お邪魔しても大丈夫そうならその方がいいと思う。 今年のバレンタインは当日よりもそれまでが忙しくなりそうだけど、楽しいだろうな。 「今回は守部君の一人勝ちのようですね」 「勝ち負けがあるようなモノとは思えませんが……」 「まぁ、当日まで時間はありますから焦らずに、といったところでしょうか。無論、それはあなたもなのでしょうが」 「………………」 E N D
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