神宮寺レンの憂鬱な休日もう朝か…… リビングで寝ちゃったか。 最近疲れてたとはいえ、やっちゃったな。今日はハニーとデートだっていうのに。 ハニーに少し遅れるってメールして、急いでシャワーを浴びないと。 「ぅー……わん」 ……わん？ 犬なんて連れて帰った覚えないんだけどな。 もしかしてハニーがこっそり部屋に来てて鳴き真似、とか？ 可愛いなぁハニーは。 「ぅうー」 いや、これはハニーというよりは大型犬だよなー。 ボスがまた窓突き破ってきたとか？ 身体の疲れはとれてるけど、まだちょっと眠いな。 でも、起きてハニーのところに行かないと。 よっ……ととっ 「わふっ？」 あれ？ おかしいな、上手く立てない。 やっぱり疲れてるのかな？ ――ピンポーン えっ？ もうそんな時間？ ハニーを迎えに行きたかったのに、オレってどうしてこうなんだろう。ハニーにはいつだってスマートなオレを見せたいのに。 でも、とりあえず起きてハニーを出迎えないと。 「ばぅ？」 何でだろう、足がもつれるっていうか、バランスがとれない。 「神宮寺さん、起きてますか？ あれ？」 ハニー！ おはよう。ゴメンね迎えにいけなくて。 「わん！ わうわん」 「大きな犬。でも、神宮寺さん犬飼い始めたなんて一度も……」 犬？ オレが目の前にいるのにそっちが先なんて寂しいな。 「わふん。わん」 「わっ！ くすぐったいですよー」 ハニーの肩に手をかけたら、そのままハニーを押し倒しちゃった。 キスをしようとしたら鼻が先に当たるし、何か今日は上手くいかないな。 「ボルゾイ……なのかな？ おはようございます。神宮寺さんを知りませんか？」 オレの下にいるハニーが手を伸ばしてオレの頭を撫でてくれる。 ……えっ？ 「こんなところに服を脱いじゃうくらいお疲れのようですし、まだ寝室でお休み中なのでしょうか？ ちょっと見に行ってきますね」 オレの頭を軽く叩いてから身体を起こすと、ハニーは寝室に向かっていった。 確かに、ソファの下には昨日オレが着ていた服が散乱してる。 「わぅー」 えっと、昨日は仕事が終わったのが遅くて、マンションに戻ったのが日付が変わったくらい。 シャワーの前に少し休もうと思ってリビングのソファに腰掛けて……アレか。シノミーがボスから貰ったって分けてくれた栄養ドリンク。 確かに身体の疲れは驚くほど抜けてるけど、まさかこんな副作用があるなんてね。 「どこに行ってしまったのでしょう……」 ハニーが階段を重い足取りで降りてくる。 「夕べお仕事が終わったときに送ってくださった�爐�やすみメール�瓩呂い弔發畔僂錣蠅泙擦鵑任靴燭掘�服やお仕事のときに持っていかれてる鞄はソファのところにあるから、昨日帰宅はされてるはずなんですよね。早朝に急にお仕事が入ったのだとしても、�爐�はようメール�瓩醗貊錣肪里蕕擦討�ださるでしょうし……連絡すらできない何かがあったのでしょうか？」 ハニー、ゴメンね。せっかくのオフなんだからデートしようって誘ったのはオレなのに。 「くぅん」 「心配してくれてるんですか？ ありがとうございます」 オレを撫でてくれる手は優しいけど、力はない。 ハニーは階段を降りるとソファの脇に凭れて、膝を抱えるように座る。 「もしかしたら携帯に何か連絡入ってるかも。ちょっと取ってきますね」 オレはココにいるよ。連絡なんてしてないから、ココにいて。 「部屋にいた方がいいんですか？ あ、テーブルの上に携帯があるからなのかな？」 ハニーにアピールするように身体を押しつけると、テーブルの上のオレの携帯に気付いたハニーは立ち上がろうとした手をオレの背中に回す。 そういうことじゃないんだけどな。 「……いつもデートのときはダーリンが私の部屋に来てくれて、二人で一緒に朝ご飯を食べてから、出かけるんです」 いつもは恥ずかしいからってオレのことダーリンって呼んでくれないのに！ 不謹慎だけど嬉しいな。 寂しそうなハニーに寄り添うと、優しく撫でてくれる。 でも、ハニーにこんな顔させたいわけじゃない。 「どう見ても�狄正椹�レン�瓩砲靴�見えないのに『今回の変装は上手くいっただろ？』って言うダーリンは凄く可愛いんです。それに最近は変装も上手になって、気を付けていれば色々なところに行っても大丈夫になったんですよ」 「わふん!?」 ハニー、そんなこと思ってたの？ 「私の家の近くの公園は桜が咲くと露店が出て、夜はライトアップもされて賑やかになるんです。その話をしたら、ダーリンが『今度のオフに行こうね』って言ってくれて、今日行く約束してたのに……」 うん。オレもスゴく楽しみにしてたんだよ。 ハニーとのんびり桜を見ながら公園を歩いて、ハニーが好きだって言ってたリンゴ飴買ってあげて。 今までのオレに求められてたデートプランなんて全然いらなくて、二人で一緒にいるだけでいいなんて、こんな幸せなことってないよね。 ハニーが泣いてるように見えて、舌で頬を舐める。 「ありがとうございます。何ででしょう？ ワンちゃんなのに、凄くダーリンに似てる……」 そうだよ、ハニー。オレだよ。 こんな姿でもオレだって気付いてくれるんだね、ありがとう。 「ダーリン、会いたいです……」 こんな状態じゃあ、オレに抱きついたまま静かに泣くハニーの涙を拭ってあげることもできない。 早く元のオレに戻って、ハニーをめいっぱい愛してあげたいのに。 「わふっ。わぅん！」 「大きなワンちゃんなのに、肉球柔らかくて気持ちいいです。ごめんなさい、泣いたりして。困っちゃいますよね」 困ってなんかないよ。 ソファの肘置きが定位置になってるハニー専用の膝掛けを上手く掴めない手でどうにかハニーの肩にかけてあげて、ハニーにぴったりと寄り添う。 「お昼寝したいんですか？」 「わん」 そうじゃないんだけど。 ゴメンね、こんなに辛そうなハニー見たくないのに、今のオレには何もできない。 夢の中ならきっといつものオレでいられるから、一緒に寝よう？ 「そうですね、ここにいれば戻ってきた神宮寺さんが起こしてくださるかもしれませんし。そうだ、起きたらお散歩に行きましょう。ダーリンが帰ってきたって知りません。何も言わずに置いて行かれたんです、やり返してあげちゃいましょうね」 大きめの膝掛けの半分をオレにかけてぎゅっと抱きついてくる可愛いハニー。もうどんな姿でもいいや。起きたら約束通り桜を見に行こうね。 「くぅん」 おやすみ、ハニー。 ☆ ☆ ☆ 「ふぁ……あぁー。今何時だろ？ あれ？」 ……喋れてる！ 手も、足も、ちゃんと�狄有瓩離�レだ。元に戻った！ 「ふぁ……ワンちゃん？」 「おはよう、ハニー」 「ぅ……ん？ ダーリ、ん――!?」 勢いよく起きあがったハニーの肩から膝掛けが落ちる。 「な、何で神宮寺さん裸なんですかー!?」 顔を真っ赤なハニーも可愛いなぁ。でも後ろ向かれちゃうと少し寂しい。 そういえば、服はソファの下だった。下は膝掛けで上手く隠れてるけど、ハニーには刺激が強すぎるよね。 「ねぇ、ハニー。『ダーリン』って呼んでくれないの？」 後ろから抱き締めて涙の跡が残る頬を舐めたら、ハニーは立ち上がってオレの方を振り返りもせずドアに向かって走り出した。 「じ、神宮寺さんのバカー！」 「ハニー、待って！ 色々説明させて！」 シャワーより何よりも先にハニーにたくさん謝って、それから今日をやり直そう。 大丈夫、まだ時間はたくさんある。 だから今日一回くらい、ちゃんとオレに向かって『ダーリン』って笑ってくれないかな…… Ｅ Ｎ Ｄ
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