「女難の相が出ていますねー!」 台本が届いてるからと事務所に寄ったオレに向かってボスが投げてきたのは、そんな言葉だった。 「おはよう、ボス。どうかしたのかい? そんな藪から棒に……って、もう行っちゃったか」 いきなり「女難の相」と言われても、何のことか思い当たる節はない。 昔のことを引っ張り出されてしまったらオレとしては釈明の余地もないけれど、今はハニーがいてくれるから問題なし。 ハニーとのことがバレたって様子もないし、そんなことがあったらボスよりも先にジョージが何か言ってくるだろう。 言うだけ言ってそのまま事務所の窓から飛び降りていったボスの背中を見送っていたオレに、背後から声がかけられた。 「シャイニーどうやら、人相占いにはまっちゃってるみたいなの」 「おはよう、リンゴちゃん。説明ありがと。よくわかったよ」 「おはよ、レンちゃん。アタシも来て早々『今日の林檎サンは無駄遣いの多い一日になりまーす!』なんて言われたのよ! 今日は龍也引っ張ってでも飲みに行かないとやってらんないわよ」 「うん、早速無駄遣い宣言してるね」 それにしても女難、ねぇ…… リンゴちゃんの無駄遣いはさておき、共演者とスキャンダルとかあられると困るし、一応気を付けておこうかな。 こういうときのボスって、案外無視できないんだよね…… ――なんてことがあったのが、朝の話。 当然のことだけど、グラビアの撮影現場に女性スタッフはいたし、その後のテレビの収録現場にだって女優や女性タレントはたくさんいた。 でも、これといってトラブルはなかったし、無理矢理にでもこじつけて週刊誌のネタにされるようなこともないままハニーの待つ寮に帰ってきたわけだけど、今回ばかりはボスの占いもハズレかな? それに今日は仕事が順調に進んで予定よりも大分早く帰ってこれたし、ハニーへのお土産に話題になってたシュークリームも買えたし、災難どころか順風満帆な一日だった。 エレベーターに乗ってオレとハニーの部屋のあるフロアのボタンを押す。 「ハニーとのんびりすごるなんて、いつぶりかな?」 そういえば帰りが早くなったってハニーに連絡してないけど、大丈夫かな? スケジュール通りだったら帰るのはもうちょっと後なんだけど、今くらいの時間ならまだディナーの用意は始めてないはず。 今からでも予約可能なところはあるから外に食べに行ってもいいし、久し振りにハニーと一緒にキッチンに立つのもいいな。 最近はハニーがご飯作って待っていてくれるのに甘えちゃってたし、お互い仕事の話ばかりでゆっくりできなかったから、今夜は何でもない話をしてすごしたいかな。 ☆ ☆ ☆ ハニーの部屋のドアの前で軽く深呼吸。 チャイムを鳴らして反応がなかったら、合鍵で中に入ればいい。合鍵を交換したときにドアガードはしないように決めたし、今日はオレが来ることは連絡済だから開いているはず。 インターホンを押して少し。 もう一度押しても応答がないから自分の部屋と間違えないようにマークを付けた合鍵を鍵穴に差し込んだ。 「ハニー、ただいま」 出掛けてるのかと思ったけど、玄関にはハニーが普段履きにしている靴が綺麗に並べてある。 仕事に集中してるか、うたた寝をしてるのかと思って靴を脱いで玄関を上がろうとしたそのとき、何かがぶつかった様な大きな音が廊下にまで響いた。 「ハニー!? 大丈夫?」 …to be continued.
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