Monster! Monster!

第3話『エルギーザの封印』

かいた人:しあえが









 それからしばらく後…。
 かなり疲労していたシンジ達であったが、混じりけのないオアシスの水と、周囲の木々にたわわに実る見たこともない果物のおかげか、それとも故郷にて彼らの無事を願う家族の祈りのおかげか、間もなく回復した。

「よっしゃ、そろそろ準備にするで」

 背伸びをし、首をコキコキと鳴らしながらトウジは言った。その姿には、数刻まで脱水症状と栄養不足、疲労で死にかけていた気配は微塵も見られない。
 おそらく食べた果物に秘密があるのだろうが、体は軽く力が漲っている。絶好調だ。
 少々気味悪くもあるが、それで損をするわけじゃない。そう判断するとシンジ達はそれ以上考えることをやめた。楽観的すぎるきらいもあるが、年齢相応の少年らしいと言える。

「そうだね、いつまでもこうしていたって仕方ないしね」
「一応、帰る分の食料にできそうな物は集めたし…行こうか」
「せやからさっきからそう言っとるやら」
「慌てるなって。慌てる乞食はもらいが少ないって言うだろ」

 たき火の後に円陣を描いて座っていたシンジとケンスケもまた、立ち上がり背伸びをして体をほぐしながら返答する。その目はトウジ同様生気に満ち、体力が完全に回復していることを物語っていた。
 まだちょっと疲れというかだるさはあったが、それよりも今はとにかく体を動かしたかった。見る物全てが驚愕の遺跡の中でじっとしていることに、いい加減退屈を感じてもいた。死にかけたというのに、この逞しさは見習うべきなのかそれとも呆れるべきなのか。
 尤も、砂漠という過酷な環境の中で暮らす人間は、それくらい逞しく、切り替えが早くないと生きていけないのかも知れない。それはまた、なよなよしているように見えても、受けであってもシンジが砂漠の男だという証明でもあった。


「もう計測は済んでるよ。一辺がおよそ360歩の正四面体。だいたい300mってところだよ。すごいね、この巨大さなのにきちんと建ってる。普通なら自分の重みでぐちゃぐちゃに崩れていてもおかしくないのに。
 とにかく、間違いなく史上最大のピラミッドだよ」

 立ち上がってズボンについた砂をはらい、シンジは目をピラミッドに向ける。
 彼の背後で連射型ボウガンを背負い袋の中から取り出しながら、ケンスケも言葉を続けた。

「腕が鳴るぜ」

 軽い口調だったが、どこか白々しくシンジには聞こえた。ちらりと目を向けると、ケンスケは目をあわせようともせずに俯いた。シンジもまた、何も言わなかった。ただ自分を奮い立たせるように、右手を握っては開き、握っては開いて不安をうち消そうとする。

「震えとるんか、2人とも」
「そう言うワケじゃ…いや、震えてる。怖いよ」
「シンジもか? 俺もだよ」
「ほか。ワシもや。ごっつ怖いわ」

 3人は顔を見合わせ、そして無言でピラミッドを見上げる。
 今なら、まだ間に合う。途中の砂漠は依然危険だがそれでも一度はくぐり抜けた危険だ。なんとかなるかもしれない。何も言わなかったが、3人の胸中を同じ考えがよぎった。

「引き返すか? 今ならまだ、間に合うと思う」

 恐る恐るケンスケは提案する。他の3人はたとえ同じ事を考えたとしても、決して口にしないだろうと判断して。また臆病者と思われるんだろうなとか、どうして俺がとか考えながら、つくづくリーダー向きの人材が欲しいとケンスケは思う。
 ともあれ、ケンスケの提案にシンジ達は揃って首を振った。彼の予想通りに。

「…まさか。ここで引き返すくらいなら、最初から来ないよ」
「そや、な。ここまで来て、もうちょっとでお宝、あの生きながら死んでる日々とおさらばできる言うのに、引き返せるかい」

 強がりだ。精一杯の強がりではある…だが、彼らは恐怖しながらもすぐ手の届く位置にきた栄光を前にして、引き下がるほど欲がないわけではなかった。予想通りの答えに、ケンスケは無言で頷き返す。

「………(俺もだよ)」

 そう、確かに彼らの体は恐怖だけではなく…期待に打ち震えている。
 彼らが眩しい目をしながら見上げるピラミッドは、とてつもなく大きくて、そして荘厳だ。表面は3000年前に作られたとは思えないくらいにすべすべとしており、ほんの数年前に磨かれたかと見まがうばかり。なにより頭頂部が光ってると言うことは、キャップストーンが風化せずに残っていると言うことでもある。それだけでも、このピラミッドがただ石を組み上げて作られた物じゃないことはわかった。本音を語れば、素人なりに色々調べてみたいくらいだ。

(考古学者に調べた情報を売れば…それだけで金貨30枚になるだろうな)

 ケンスケはそんなことを考える。
 これから中に入ってお宝見つけて色々荒らし回って、さよならしちゃうのを躊躇うくらいに、このピラミッドは圧倒的だ。何というか、それで終わりにするのは凄く勿体ない気がする。

 モラルに縛られず、自由人を自称する。つまりはただ年上と言うだけの目上の存在に敬意を払ったことのない彼だったが、そんな彼でもこのピラミッドには畏敬を感じる。
 このピラミッドは観光地にある、既に霊験を失ったものと根本から異なっている。
 おそらく、いつぞや見かけた崩壊寸前のマミーレベルの危険ではない。尤も、そのマミーが相手であってもシンジ達は生きるか死ぬかの大乱戦を繰り広げることになったのだが。

「どんな魔物がおるんやろな」
「いつかみたいに、またマミーかな。王様の死体とかがあるんだよね。あと、生き埋めにされたお姫様とか」
「嫌な想像はやめろよシンジ。王様はともかく、お姫様の方は生々しすぎるぜ」
「ごめん。でも宝物も…きっとたくさんあるんだろうね」

 そうでないと困る。
 誰も入ったことのないはずの、お宝満載のピラミッドなのだから。しかしそれは翻って、呪いとデストラップが100%稼働中のということでもある。本格的に罠や魔物が稼働しているダンジョンに入ったことは、まだ彼らにはなかった。
 罠は勿論、どんな恐ろしい魔物がいることだろう。特に殺された王様と、生き埋めにされたお姫様の怨念は如何ばかりか。ユイ辺りなら『怨念たっぷりって感じよね』と軽く言うだろう。
 だが、半人前の彼らには想像するだに恐ろしい。
 どうしても愛する者を殺された怨念を、自分が同じ立場になったときの事を考える。

(母さんは殺されて、僕は生き埋め…。なんだかんだ言っても、僕は母さんのことが好きだ。
 …きっと世の中の全てを恨んで破壊することを厭わないだろうな)

 もし姫の怨念が生きていたとしたら。果たして剣をふるえるだろうか。彼女の無念はわかる。
 同情してしまうかも知れない。

(馬鹿なことを)

 ぶるっとシンジの体が震えた。覚悟を決めたはずだが、やはり体が震えるのを止められない。心も体も、その芯の部分はやはり恐怖していた。
 ピラミッドの最深部に入り込み、宝を持って生還する。それはきっと砂漠横断よりも危険だろう。たぶん。

 だがここで怖じ気づくわけには行かない。
 その為にこそ、彼らは命をかけて ─── 余計な危険に身をさらしながら ─── ここまでやって来たのだから。
 必ず、生きて宝を手に入れ街に帰ってやる。そして、自分達を馬鹿にした連中を見返し、無事を祈っているだろう家族を安心させるのだ!


















「でっかい柱のアーチの先で、入り口らしいのも見つけたよ」

 さりげなく第一歩にあたる言葉でシンジは二人を促した。いつものことながら本人は無意識だし、リーダーなんて面倒なだけだから冗談じゃないと思いながらも、そこは母親かそれとも父親の血か。何とはなしに、人の行動を決定する何かが彼の言葉にはあった。
 その言葉に、トウジ達もうんと頷く。

「ナイスや。せやけど、馬鹿正直にそこからはいるわけにはいかんけどな」
「そうそう。ま、道具なら準備オッケイだぜ」

 自分の獲物(ノミたがね、先端からそこそこ長い紐が出てる髑髏マークの円筒)をかまえてトウジ達はニヤリと笑う。
 こう、口の端を歪めてにやぁりと。
 某特務機関司令のそれの足元にも及ばないが、ひたすら不気味な笑い顔だ。まさに悪巧みをしている男の子の顔。大抵、こういう顔をしてるときの男の子はろくな事を考えていない。たとえば同級生の女の子の背中に蛙を入れようとするとか、落とし穴を仕掛けているとか…。
 話がそれた。
 その笑顔が怖かったからか、彼らの言葉に納得ができなかったからか。
 不安そうに、怖そうにおずおずとシンジに声を掛ける存在がいた。

 前回初登場のシンジにしか聞こえない声……、仮にM嬢としておこう。正体は詮索禁止。
 M嬢が、もし体があったらシンジの服の裾をぎゅっと掴んで縋り付くようにして、雨に濡れた子犬みたいな感じでシンジに質問をした。なんでですかって?

 あと、なんであんな怖い顔をして笑ってるんですか?

 とも聞きたかったけど、シンジも彼なりにニヤニヤ笑っていたのでそっちは聞くに聞けなかった。
 M嬢が脅えてることに気付かないまま、シンジはこれからすることを想像してちょっとだけおかしそうに笑い、トウジ達に変な人と思われないように、声に出さず頭の中で答えを言う。




激しく手遅れだけど。




・某T・S少年の言葉
「シンジ? ええ奴なんやけど、時々ちょっとな。
 妙なモンが見えたり言うか、たまに変なことを言うんや。ああいうのは電波系言うんか?」

・某K・A少年の言葉
「親友を余り悪く言うのは好きじゃないけど、あいつ…なんか俺とは、俺達とは違う感じがする」






 ともかく、自分がトウジ達にアレと思われてるとはまさか夢にも思わず、シンジはM嬢の質問に答えた。一応書いておくが、妙なところで達観とした彼は、頭の中に響くM嬢の声を異常事態と考えず『まあ、いいや』で済ませてしまったらしい。達観としすぎていてそれはそれでどうかと思うが。大物なのか、単に面倒くさがりなだけなのかよくわからん。


(ああ、入り口ってのは大抵罠が一杯なんだ)

 シンジの答えにM嬢はとりあえず納得したのだが、それはそれとして気になることがあった。
 とにかく気になって仕方なかった。いそいそと嬉しそうな顔をして何かの用意をするケンスケが。

『そうなんですか…。
 そう言われてみれば色々…。でもそれとあの人達が持ってる、妙に物騒なものとの関係は何なんですか?』

 シンジはすぐに返答せず、ちょっと感動する。
 普段彼の身近にいる女性のそれとは全然違う、妙に丁寧なM嬢の言葉遣いが、なんだかとっても新鮮に感じられる。頼られているという感じがして、とても背筋がゾクゾクと震えるくらい嬉しい。彼の身近にいる女性と言えば、彼を便利な召使いか何かみたいにこき使うははお……いや、言うまい。
 とにかく質問の初々しさと可愛らしさが、なんだかとっても最高さッ!

(あはははは、まあ見ていればわかるよ)

『はい、わかりました。見ていますから、シンジさん』

 まだ彼女は何ごとか言葉を続けていたが、シンジは聞いていなかった。ぐっと拳を固め、うるうると感動の涙を流していたから。
 シンジさん
 自分を『さん』付けで呼んでくれる女性がいるなんて!
 背が低く、中性的な顔をしていることもあって彼は今まで男性として頼られた経験がほとんどなかった。いつもトウジ達と連んでいた所為もあるが、大概力仕事はトウジが頼られ、手先の器用さではケンスケが頼られる。

 だが彼女は自分を、自分のことを!

 また妙なことで感動するシンジだった。さん付けで呼ばれたくらいでここまで感動できるとは、幸せの国の住人なわけでもあるまいに。

『あの〜どうしたんですか? 真っ暗になってるんですけど』

 目を閉じて感動に震えていたシンジを不思議に思ったのか、M嬢が恐る恐る話しかける。ちょっと、いやかなり不安そう。理由は後で述べることになるが、シンジと会話できなくなったら彼女にとっては死活問題なわけで、それも当然と言える。

(ああ、そうだったね。僕が見ていないと見えないんだったよね)

 返答しつつ、慌ててシンジは両目を開いてトウジ達に視線を向けた。

『はい、見えますよ』

(良かった)

 説明しないとわからないだろう。
 どうやらシンジの視覚と聴覚、あとたぶん嗅覚と味覚を、どうやらM嬢は共有しているらしい。だからシンジが目を閉じればM嬢は何も見えなくなり、シンジが息を止めればM嬢は窒息はしないまでも匂いを感じることがない、そしてシンジがかき氷を一気食いすれば、M嬢も一緒になって額の痛みに身悶えする…ということだ。
 ちょっと変な喩えもあったが概ねそう言うことで納得して欲しい。

『あんな道具で、別に入り口を作るつもりなんですか?』

(まあ見てなよ)

 M嬢の疑問を受け流しつつ、シンジはのんきな目をしながら怪しい作業をしているトウジ達を見つめた。


 まずはトウジがノミをふるい、磨き上げられた当時の姿そのままのピラミッドの石に刻み目を入れ、円筒を入れるに充分な大きさの穴を穿つ。トウジがハンマーでノミのを叩く度にM嬢が『きゃっ、そんなこと』とか少し怒ったように言う。どうもわずかであっても、ピラミッドが傷つくことが我慢できないようだ。とは言え、面と向かって文句を言うほどではないらしいが。

『うう〜、仕方ないこととは言え…でもやっぱり納得できないよ〜』

(どうしたの?唸って。もしかしたら、ピラミッドは傷つけない方が良かったの?)

『え、あ、その。心情的にはあまり傷つけて欲しくないですけど、でも仕方ありませんよね(…あなた達が傷つくよりはマシです。我慢します)』

 続いてケンスケが心の底から嬉しそうににたにた笑いながら、ほいほいと円筒を束にして突っ込み、突き出た紐を寄り合わせて一本にする。そしてその紐に妙に長い紐を結びつけた。
 そして極めつけにいや〜んな笑みを浮かべると、懐から携帯用簡易火口、通称『マッチ』を取りだした。ちなみにより安全な使用ができる赤リン使用である。

 シンジはこれから起こることを想像してニヤニヤしながら耳を押さえるが、M嬢の方はと言うと、マッチが何かはわからないけれど、わからないなりに不安を感じたのか、鼓動と脈拍を70%増しにして焦った様子。
 そらまあ、化け猫みたいに目と口をにんまりと歪められれば焦りもするわな。

『ちょ、ちょっとシンジさん!? あの人達、一体何してるんですか!?
 見ているだけでもの凄く嫌な感じなんですけどっ!』


(あれ?言ってなかった?)

『言ってません〜。ああああ、もの凄く怖い予感がする〜』

(大丈夫だよ。ちょっと大きな音がして新しく入り口ができる程度だから)

 新しい入り口って…どのくらいの大きさなんですか〜〜〜?
 シンジの慰めの言葉(?)に関わらず、たぶんM嬢は涙を滝のように流している。

 と、その時作業が終わったのか、ケンスケが大声で叫んだ。しかし、様子がおかしい。
 叫ぶのはわかる。うん。
 逃げろ〜とか、離れろ〜とか、かい〜のとか、シンジ達に警告するために叫ぶのなら。爆薬を扱うのだから、そういう事を言ってもおかしくはない。しかし、ケンスケが叫んだ言葉はそのいずれでもなかった。彼の口から出たのは、ちょっとやそっとのことでは動じなくなった彼らを動じさせるような言葉だった。
 シンジ達が絶句するような声で、あんぐりと開けた顎が地面に転がり落ちそうな言葉を。



「か、過、火薬の臭い…。
 土曜日の実験室〜〜〜!!!」


 そして肩をガクガク揺すって馬鹿みたいに笑う。

「け、けん…」
「…スケ?」


 もうちょっと追加すると、M嬢の不安を裏付けるように、脳内物質を耳の穴から溢れ帰らんばかりに分泌させた逝ってしまった表情で。
 左右で瞳が段違いになっていて、ネズミを見た某猫型ロボット状態というか。なんて言うかお近づきになりたくない。



「ひひひひひひひひひひひひひいひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひいひひひひぃ!
 どかんと一発すごいの行くぞ!」







 なんですか、その笑いは?



 ヤバイのはいつものことだが、今回のケンスケの笑いはシンジ達が「こいつぁやばいぜ!」と叫ばずにはいられないほどやばかった。
 サーッと音をたてて顔色を悪くするシンジ達。何ごとも動じないくらいしっかりしているM嬢ですら、顔を青くせずにはいられない。

「や、やばっ!! 油断しとるまに!
 砂漠越えはきつかったしのぅ…。それとも呪いなんか?
 って納得しとる場合とちゃう!はよ逃げシンジ!ケンスケ逝ってもうとるわ!」
「もしかしたら火薬全部ぶち込んだの!?
 ピラミッドごと吹き飛ばすつもりかよ!
 あの火薬気違い!」
「いや、さすがに全部はふっとばんやろ」
「そうかな?」
「そや。精々、50m四方ってところやないか」

 ピラミッドの一辺は300m程度だ。
 なら安心だね。
 と、M嬢と一緒にシンジはため息をつき…50m四方がどれくらいかを想像した。
 ピラミッドに比べれば狭い範囲だが、ちょっとした城がすっぽり入るくらいの範囲である。
 しっかり作られているとは言え、ピラミッドという物はかなり微妙なバランスでつくられている。その一部とはいえ、それが火薬で吹き飛ばされるとなれば…。
 ちなみに少量でも効果を出すように、破壊力を増すようにと、ケンスケが使う火薬は錬金術師が扱う中でも高価な部類に属する火薬で、しかも街の呪い師に魔法を掛けてもらっている。別名、スパイナーとも呼ばれる特殊火薬だ。

「ピラミッド………崩れないかな」
「崩れるやろうなぁ」
「だめじゃん」
「せやな」
「いい加減にしてよ」
「こらまた失礼いたしまし…」

 役にたたねぇ!
 漫才をする2人に、M嬢は頭を抱えた。面白い人だなとは思ったけど、こうまで面白いとは!
 こういう状況じゃなくて、なおかつ自分が当事者の一員じゃなかったら笑ったけれど!!

『あああ、こんな時に限って予想が当たってしまうなんて〜!
 もしかしてこれが大臣の残した呪いなのかしら…。
 お父さんのお墓が〜』



「って冗談はこのくらいにして、どうしようトウジ!?」
「逃げるか隠れるか…。難しいところや」
「ケンスケー!馬鹿な真似はよせー!」

 その場にいた全員が口々に叫び、安全圏と思われる所に逃げ込んだ瞬間。って君たち、止めようとしないんですね。
 ただ一人逃げずにいたケンスケは、よだれを垂らしながらシュッと一こすりでマッチに火を点けた。
 火を見つめる瞳は変わらずロンパリで、なんて言うかコメントしたくない状況だ。







「けけけけけけけけけっ!
 お、俺を眼鏡君とかオタクとかストーカーとか言って馬鹿にする奴ら、みんなみんな見返してやるっ!!

 俺が何か言う前にふった○×と◆%凸と×◇★と…
 (以下涙が止まらないので略)
 …めっ!
 俺をストーカーと決めつけた□▲◎!
 俺はロリコンじゃない!守備範囲が上に狭くて下に広いだけだ!
 いやあいつらだけじゃない!
 シンジ、トウジ、おまえ達もだ!
 トウジ、砂漠では散々馬鹿にしてくれてありがとうよ!
 シンジ、変化球みたいに俺のナイーブな心を責める皮肉の数々、ごちそうさま!
 だが見てろ、誰が一番なのかを教えてやる…。
 おお、ファラオが俺を呼んでいる〜〜〜」


「やめ────!」

「うわ────!」

『呼んでません、呼んでません!
 お父さんはあなたなんて呼んでません〜〜〜!!!
 え〜ん!
 もう死んでるけど、死にたくない〜〜〜!』



 そしてその火がゆっくりと導火線に近づき…。

































ジュッていって消えた。













 じっと手元と、導火線を交互に見る。
 手にじっとりと汗をかいた状態で握りしめていたから、火が消えてしまうくらいに湿っていたらしい。

「あれ? 火がつかない? イヤーンな感じ」
























「助かったみたいやな。それにしてもケンスケらしい落ち言うか」
「ざまないね。じゃ、今の内にケンスケ半殺しにしようか」
『ううう、お腹痛かった…』


 とりあえず───、
 正気に返って平謝りに謝るケンスケを気持ちいいくらいにしばきあげ、適量の爆薬にしてシンジ達が導火線に火を点けたのは、それから5分後のことだった。









 ズドム

 爆音の後、たっぷり1分ほど待ってから、シンジは恐る恐るといった様子で煙を噴き上げる開口部へと近づいていった。物陰に隠れながら、さらにトウジから盾を借りて慎重に慎重に近づき、そしてどうやら大丈夫と判断すると右手を大きく振って後に控えていたトウジ達に合図する。

「大丈夫だよ、全部爆発したみたいだ」
「すまんな、シンジ。偵察兵の真似事させて」
「仕方ないよ。とち狂ったケンスケじゃ不安だし」
「もう正気に戻ってるって…」
「いや、そうじゃなくて普段が普段だし」
「どーいうー意味だ」

 ケンスケの言葉を綺麗サッパリ無視し、火薬の煤で汚れた入り口をのぞき込みながらシンジは髪の毛を1本抜いて、そっと手を離した。

「おい、シンジ。何とか言えよ」
「なんとか」

 シンジの背後でガクッと膝をついてケンスケが項垂れるが、シンジとトウジ、そしてM嬢は揃って無視すると暗い穴の中へと消える髪の毛を目で追いかける。
 風に巻かれながら髪の毛は穴の中にのみこまれていく。

「通じてるよ。少なくともある程度の広さを持った空間に」

『それで…わかるんですか?』

 シンジのやったことの意味が分からなかったのか、おずおずとM嬢がシンジに話しかける。髪の毛を穴の中に入れただけで、そこまでわかるものなのだろうか。そんな彼女の疑問に、シンジはまたちょっとにやけながら説明する。本当に頼られてるって感じがして嬉しいなぁ、とか思いながら。

(うん、こうして外から中に空気が動いてるって事は、つまり空気が循環しているって事だからね)

『物知りなんですね、シンジさんって』

(そ、そんなことないよ。これくらい、冒険者として身を立てようとするんなら常識だから)

『くすっ』

 顔を赤くして、照れ照れと身悶えしながらシンジは火を点けた松明を穴の中に投げ落とす。意外にすぐに松明は床に達し、そして床に転がったまま燃え続けていた。有毒なガスが溜まっていたり、二酸化炭素が溜まっていると言ったこともないようだ。
 背後を振り返り、グッと親指を立ててシンジは合図する。


「よっしゃシンジ、エエ仕事や。崩れる心配もなさそうやし…。
 それじゃもうおふざけは抜きや。行くで」
「ああ」

 その言葉を最後に、先ほどまでのどこか遠足に行くみたいに和んだ雰囲気の3人の顔つきが変わった。
 ケンスケが連射型ボウガンを右手に、左手に火を点けた松明を持ち、闇に目を凝らしながら注意深く通路に潜り込んだ。続いてトウジが彼から見ても大きなハンマーを両手に構えて、これまた注意深く潜り込む。最後にシンジが砂鮫を屠った幅広の短刀を抜き、一定の速度を保ちながら2人の後に続いた。

(わっ、意外に3人とも様になってる…)

 彼らの姿(と言ってもシンジ以外は眼中に無し)に、本気で感心するM嬢だった。
 少し…いやかなり胸がドキドキする。彼らなら、本当に自分を解放してくれるかも知れない。


































 数分後。

 穴をくぐり抜け、ピラミッドとしては珍しい石畳の通路を3人は慎重に歩く。偵察兵のケンスケは注意深く前方の闇に目を凝らし、そのすぐ横でトウジが天上や床に仕掛けでもないかと注意しながら足を進める。シンジは後方に意識を集中していた。
 今のところ、なにか自分達以外で動くものの気配はない。

「少しペースあげる?」
「いや…油断は禁物だ。なんか気配が気に入らない」
「同感や。シンジ、このままのペースでいこか」
「わかった」

 速度は変えないまま、注意深く周囲に目を配り、壁に描かれている絵の一つ一つに目を向け、重大な事柄が書いてあるのではないかと丁寧に埃をはらう。登場人物は全て顔と下半身は横向きだが、上半身が正面という独特の壁画だ。ほとんどが意味のない ─── 本当はあるのだろうが ─── 少なくとも彼らには意味のない絵だ。

『あの…そんなに急がなくてもいいですよ』

(え? …うん)

 なぜかピラミッド内部に詳しいらしいM嬢のアドバイス(シンジはケンスケ達に勘とか本で読んだと言い直していたが)のおかげで、無駄な作業を極限まで減らした彼らの移動速度は速く、内部に入り込んで30分あまりで彼らの走行距離は500mに達しようとしていた。全ては順調に思えた。



 松明の炎で赤く染まった顔を軽く振り、戦闘用ハンマーで目前の闇をはらいながらトウジが呟いた。

「なんや妙な通路やな。湿っぽいのにカビの臭いがせえへん」
「ぼやくなよ。湿っぽいと言っても砂漠の中だからだろ。虫もいないし結構じゃないか。
 とりあえず、曲がり道はないし罠もない…か」

 ケンスケも緊張に耐えられなくなったように言葉を続ける。なにがしかの罠なり、なにかの手がかりなりがあるかも知れないと思っていたが、こうまでなにもないと集中力が持続しない。大仰に首を回し、コキッと首の骨を鳴らす。

(罠が無いなら無いで良いんだが、しかし…気になる)

 ちらっと前方の床を見る。埃一つ、虫の死骸一つ落ちてない綺麗な床だった。
 この手の所に付き物の厚く積もった埃が、蜘蛛の巣の後や虫の死骸がないことが気になった。誰かが掃除でもしたのだろうか。
 何もないにこしたことはないが、こうも静かだとかえって疲れてしまう。

「油断禁物や。しかし、こう何もないとそれはそれで退屈や。
 ぱぱーっと奥の通路がわからんもんかの〜。
 シンジ、なんかわからんか?」
「ちょっと待ってよ、今思い出すから(と言うことなんだけど?)」

 トウジの言葉に、シンジは考えるふりをする。
 M嬢の言葉に対し声を出して受け答えした所為で、危ない奴と見られた一方で、妙にピラミッドに詳しいと思われていたりする。まあ、なんで詳しいのか当然不思議に思われているけれど。

 もちろん実際はシンジが詳しいのでなく、M嬢が詳しいのだが。

(なんで詳しいんだろ?)

 M嬢に悟られているのかどうかわからないが、心の一番深いだろうところでそうシンジは考える。色々理由を考えてみるが、どうにも適当な考えが思い浮かばない。と言うか、鈍感王とか鈍感皇帝などと実にありがた迷惑な異名を持つ彼にわかるわけがない。
 と思ったら。

(じつはこのピラミッドに住んでいるとか…まさかね)

 読者諸氏は既にわかっているだろうけれど、かなり正解に近いことを考えていた。
 ま、鈍いと言ってもそれは人付き合い、色恋沙汰に関したことだけなので当然と言えば当然なのかも知れない。
 ただ正解には辿り着けなかったみたいだけれど。
 結局『まあ、そういう人なんだろうね。そう言えば名前聞いてなかったな』とか考えていた。



 いいのかそれで?



 そうこうする内にM嬢からの返信がシンジの脳裏に響いた。

『……えっとですね、今皆さんがいる場所はこのピラミッド外周部第一層です。そのまま螺旋状の通路を進んで第2層に行くまで、曲がり角はありません。
 たしか幾つかの単純な罠とモンスターが居たと思います。それで特に宝物とか、シンジさん達に有用になるようなものはないと思います』

(罠ってどんなの?あと魔物の種類がわかると嬉しいんだけど)

『ごめんなさい、よく知りません。ただあまり大仕掛けの罠は構造上ないと思います。
 魔物は、粘体生物の一種だとか』

 そこまで言ってM嬢は黙り込んだ。
 ありがとうと、心の中で返事をしながら、シンジはM嬢の言葉をゆっくりと反芻する。

(吊り天井とかローリングストーンはないって事だね。
 粘体生物…スライムの類か。やっかいだな)

 その予想にシンジは顎に手を当ててちょっと考え込んだ。
 自分達の装備を考えると、M嬢からの情報は大問題だ。罠はともかく、魔物に対処できないかも知れない。いや、対処できない可能性が大きい。自分は魔法の短刀と剣、トウジは両手で振り回すスレッジハンマー、ケンスケはクラーレ毒を塗った連射ボウガン。

 非常にまずい。

 今の装備ではゾンビやマミーとか言った類なら、苦戦することはあっても倒すことは不可能ではない。形があるのだから。
 だが、切っても突いても叩いても効果がほとんどないスライムは無理だ。竹槍で戦車に挑むくらい無駄な努力になるだろう。彼の顔に焦りが浮かび、それに気がついたトウジが声をかける。

「どした?」
「ん、いやなんでもないよ。
 場所が場所だからあまり大仕掛けの罠はないんじゃないかな。
 魔物はスライム系じゃないかって気がするよ」

 トウジとケンスケが顔を見合わせる。

「スライム?
 やばいんとちゃうか」
「かなりな」
「…ケンスケ、何かいい手はあるかな」

 シンジの言葉に、ケンスケは渋い顔をした。まさか砂漠でスライムに遭うわけがないと思っていた。だからその手のモンスター用の武器とか道具を用意していなかった。もし出会ったりしたら…。

 死ぬ。たぶん。
 何しろこの世界は固ゆで卵だ。生きることは戦うこと。
 都合良く経験値になってくれるような、甘っちょろい生き物はいない。勘違いしたゲームのスライムみたいに甘いのは出てこないのだ。

 この世界のスライムは、特に最もポピュラーなグリーンスライムと言えば…。
 天井からどっばぁとふってきて獲物の全身を包み込み、そのままドロドロに溶かして同化してしまうと言う、実にタチの悪い連中だ。もちろん不定形のスライムには普通の剣とか斧は通用しない。
 炎や電撃、冷気と言った手段で対抗するしかないのだ。
 そしてシンジ達にその手の技(魔法)の心得はない。


 何も手段がないと表情で語りながらケンスケは首を振った。
 シンジの言葉が間違いである可能性はとても高いが、かといってあらゆる可能性を考えてその準備をしていなかったのは明らかに自分のミスだ。滅多なことでは遭わないが砂漠にも砂スライム、別名黄色スライムと呼ばれる粘体生物がいるのだから。

「爆弾…後は油くらいかな」

 その言葉にシンジとトウジは顔を見合わせて、今まで歩いてきた通路を振り返った。
 既に数度曲がり道を曲がったため、先は真っ暗で何も見えない。黒々とした通路の奥から、何か不気味な叫びが聞こえてるようにも思えた。

「昔スライムに襲われて助かったけど両手なくした人しっとるんや。アレはかなり怖かったで」

 よせばいいのに、トウジが昔見た洒落にならないことを口走る。だが怪我の功名か、まだ進むか戻るか考えがまとまらなかったシンジ達から迷いが消えた。

「いったん引き返すか」
「そうだね」



 一端外に出て、松明をもっとたくさん用意するか狭い通路でも使えるように油壺の中身を調整するとか、火薬を適量分けておくとかしなければ。
 砂漠で遭難したときはアレだったが、この思い切りの良さは彼らが一流の冒険者になる素質を臭わせる。ただし、あくまで素質があると言うだけで経験がまだ足りないところが非常に惜しい。
 引き返すと決めた時、あるいはピラミッド内部に入り込んだ時点でもう遅かったのかも知れない。
 運命、それも悪い運命とはそうと気付かない間にその鈎爪を広げているものなのだ。

 彼らの元来た通路…。
 そこから、ズリズリ…。と何か大きくて柔らかいものを引きずるような音が聞こえてきた。

「トウジ、明かりを広げて! ケンスケ、予備に火を点けるんだ!」

 チッと舌打ちしながらのシンジの言葉に従い、ケンスケが替えの松明に火を点け、トウジは素早く古い松明を前方の空間に投げつける。
 油を染み込ませた松明というものは案外消えにくく、地面に落ちても長時間燃えているものだ。

「なんだあれ!?」

 ケンスケの叫びが響く中、橙色の明かりに照らし出されたその何物かの姿が浮かび上がった。

 浮かび上がったのは、半透明の寒天、もしくはゼリーのような物体だった。ただし、通路一杯に広がり触ったらただではすませないことを感じさせた。床に少し溜まった埃をのみこみながら、ブルブルと震えることでゆっくりとシンジ達のほうに近づいてきている。
 表面に浮かんでいるのはぶつぶつとした気泡のような穴だ。コポコポとコンプレッサーのような音をたてて開閉を繰り返している。恐らくそれが感覚器を兼ねているのだろう。つまり、目や耳になるわけだ。
 表面を蠢くそれは、シンジ達に気が付いているようだった。


「ゼラチナス・キューブだ!」


 ユイからもらった魔法の短刀を構え直しながら、シンジがモンスターの名前を叫んだ。
 すばやく左手を振ってトウジ達に後ろに下がるよう合図する。
 トウジのハンマーとケンスケの弓が効かない相手。唯一、魔力を帯びたシンジの短刀は通用するが最低ダメージだ。
 油や爆弾を使うには距離が近すぎるし、場所が場所だけに使いづらい。下手に火を点けた場合、窒息してしまうかも知れない。松明であぶるという手もあるが、できれば近づきたくない。捕まったらあっと言う間に呑み込まれてお陀仏だからだ。
 理想を言えば限定的な空間にだけ作用する炎の魔法が使えれば…。しかし、3人のいずれも魔法の心得はない。
 結論から言うと、今の彼らでは決して勝てない。

「どうするんやケンスケ!?」
「いや、それはシンジに一任だ!」
「け、ケンスケぇ〜!?」

 馬鹿を言いながらも3人は距離を取った。
 幸いゼラチナス・キューブの足は遅い。秒1cmあるかないかだ。しかも途中、地面に落ちた松明に驚いたのか移動が止まっている。一時的なものだろうが、それでも充分に時間を稼いでいる。
 普通なら確実に逃げ切れる。


 ただし、反対側から何も来ていなければだ。

「こ、こっちからも〜!」
「なんやと〜〜〜!?」
「イヤーンな感じぃ!!」

 30mほど距離を取ったところで、シンジは絶望の声を上げた。目の前の通路からズリズリと、シンジ達の努力を小馬鹿にするような音をたてながら新手のゼラチナス・キューブが近寄ってきていた。
 いつになく真面目な顔をして、シンジ達は通路のど真ん中で立ち往生しながら必死になってどこかに抜け穴がないか探すが、焦ったことがミスを呼んでいるのかそれとも本当にないのか見つけられない。
 ただむなしく壁を叩くのみ。壁画に描かれた目が大きい人物の絵が、彼らを小馬鹿にするように見つめていた。

 ある意味拷問のようにゆっくりと迫るゼラチナス・キューブ。
 じりじり、じりじりと。
 絶対的な死にさらされたとき、人間は無力に叫ぶしかない。そして後がないという心は、正気ではとても言えないようなこと、あるいは一生の秘密と誓ったことを言わせてしまうものなのだ。


例1

「ここで終わりなんか!?
 嫌や〜! そんなん嫌や〜〜〜!!!
 妹とおかん以外の人とチュウもしとらんのに、こんなところで死ぬのは嫌や〜〜〜〜!!!」
「す、すまんトウジ! 俺、アオイちゃん(トウジの妹)とキスしたことあるんだ!
 何もわかってなくて、そこがまた何とも背徳的でさっ!」
「「ええっ!?」」

 ちなみにアオイちゃんは12歳。



例2

 ぼてくりまわせれ床に転がる撲死体が一つ。額に「私は変態です」と書かれた紙を貼られたケンスケをよそに、シンジ達は必死に逃げ場を探す。
 そんな中、トウジが急にぽつりと言葉を漏らした。淡々と何気なく。

「なあ、シンジ」
「ん?」
「前にユイさんの風呂をのぞいた痴漢がおったやろ」
「ああ、あれ?
 …でも、あんまり事件でもないかな」
「どういうことや?」
「あの時風呂に入っていたの、本当は僕だから」

(そ、そうやったんか!? じゃ、じゃあワシはシンジをおかずにっ!)

「じ、実は、犯人はワシやねん」
「いや、みんな知ってたよ」



例3

 ワシって最低や…。と頭を抱えてうずくまるトウジの横で、シンジが淡々と呟いた。
 その声音の妙に悲しげな雰囲気に、あっちの世界に行っていたトウジも何ごとかと視線を向ける。

「トウジ……」
「なんや」
「時々見る夢の話なんだけど。
 紫色が微かに入った黒髪の綺麗で、胸の大きな女性がさ、とっても悲しそうな顔をしながら僕にキスするんだ」
「ほう」

 話がよく見えないが、それはそれで結構なことで。
 思わず鼻息が荒くなるトウジ。

「それが舌を入れて絡めて、はなし際に唇を軽く噛む大人のキスで…。
 キスが終わった後、その人、こう言うんだ。
 帰ってきたら続きをしましょう。って」
「ほ、ほう!」

 淡泊な顔して、実はむっつりやったんやな。と親友の評価を変更しながら、トウジは鼻息をなおも荒くする。

「続きってやっぱりアレかな!? アレなのかな!?
 もうその事考えるだけでベッドに入ってから眠るまでの時間がとっても長くなって、そんでもって朝起きてからベッドを出るまでの時間がとっても長くなってさ!
 もう柔らかい紙の使用量が激増して母さんにぼやかれて!」

『不、不潔だわ!』←君のセリフじゃないです。

「さすがはシンジ。元気やなぁ」

 共通したイメージでもあるのか、こんな時にも関わらず鼻息の荒い2人とイヤンイヤンと身もだえる1人。





 前後の道を強敵、ゼラチナス・キューブに囲まれ絶体絶命の3人!
 はたして彼らの運命は!?
 そのわりにはなんか余裕だね、君たち。実際の所、ゼラチナス・キューブって結構手強いんだぞ。

 そしてM嬢の正体とは!?間違ってもミサトって事はないぞ!






続く






初出2002/03/18 更新2004/05/23

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