ユリウスの目の前に確かにいたロリーナは、ユリウスの目の前で、ふわりと空気にとけた。その笑顔までも。
ユリウスはぼんやりとそのままつったっていた。ぽろぽろと涙が零れた。たまらなかった。
やがて、彼は目をつぶった。色んなものから目を背けるように。そう、例えば、アリスから愛を注がれた帽子屋になりたいと願ってしまった自分から。
余所者だったアリスを世界は愛した。そのアリスがいなくなって世界は絶望し、破滅を選んだ。だから、余所者を連れてくればどうにかなるかと思ったのだ。それ以外に方法なんて考えられなかった。アリスが居て、アリスを愛したこの世界をつなげていきたかった。
だけど、やっぱり無理だった。アリスは、アリスだからこそ愛されていたのだ。他に代わりなんて、有り得なかったのだ。
眼を開けた。何もかわらないままの、帽子屋の部屋がユリウスの視界いっぱいにひろがった。
ユリウスは笑った。笑いながら、泣いた。泣いて、泣いて、泣いた。ひとしきり泣き喚いて、それから、床に転がった剣を手に取った。


「――ああ、確かに私はお前を愛していたよ、アリス」


それはひとりぼっちの部屋に、やけにうつくしく響いた。そんな風に綺麗に響いたって、誰にも聞こえないというのに。本当にユリウスがそれを伝えたかった人は、ユリウスのことなんて愛してくれなかったのに。


そして、そのとき、ユリウスは、確かに、世界が崩れる音を聞いたのです。













(2007/07/30)