ペットショップ04

 二日目。
 初日ほどではないが、今日も余裕のある時刻に出勤した。
 ロッカールームで手早く身支度を終え店に出ると、店長の姿を探す。
「こんにちは」
 レジでなにやら作業をしている彼を見つけ声をかけると、彼は手を止めて笑みを浮かべた。
「おお、今日も早いね」
「今日は何をすればいいですか?」
「そうだな〜今日は後藤さんが休みなんだけど……レジ頼んでも大丈夫かい?」
 俺の顔色を伺うように小さく首を傾げて問いかけて来た。上目遣いの頼りなげな視線。俺はどうも彼のこの姿に弱いらしい。
(この顔見せられたら断れないな。ま、レジぐらい楽勝だし)
「はい。昨日で覚えましたから」
「……頼もしいねぇ。それじゃ、任せたよ?」
「はい」
 店長はほっとしたように眉尻を下げて、俺の二の腕の辺りを軽く叩いてきた。

 任せた、とは言ったものの流石に新人一人では不安なのだろう。
 レジ引継ぎ確認後、彼は作業をしながらサポートするつもりでいたようだが、他の店員に呼ばれてレジを離れることになってしまった。
 不安げな視線を向けられたが、安心させるように頷いてみせると名残惜しそうにレジを離れていった。
(大丈夫なんだがな……)
 店長の態度には少々思うところがあったが、顔には出さずに仕事に集中する。
 初めのうちこそ手が空けば頻繁に様子を見に来た店長も、レジの操作も接客も滞りなくこなした俺の姿を見てやっと納得してくれたようだ。
 その後も特に問題が起こることもなく、俺にとっては少々退屈な時間が過ぎて行った。

「おお〜い。岸本くーん。悪いけど今日も猫たちの餌を頼むよ」
 日も暮れかけそろそろ就業時間も終わりに近づくころ、店長がレジにいる俺に声をかけてきた。
「はい。ではその間、レジのほうはどなたに引き継げば?」
「ああ、俺と交代しよう。俺はレジついでに業者を待たなきゃならないんでね」
 店長は小脇に抱えていた伝票の束を掲げて見せた。
「わかりました」
 答えて軽く会釈をし、レジカウンターを店長に明け渡す。
 そのまま俺はレジを離れ、昨日教えられたペットホテルへと向かった。
 昨日と同じガラス窓の向こうの小部屋には、これまた同じ数の猫たちが俺を待っていた。
 俺は内心溜息をつきながら、それでも間違えることなくすべての猫に餌を与えていく。
 結局昨日よりも少ない時間で作業は終わり、店長の賛辞の言葉を貰って、俺はあっさりと二日目の仕事を終えた。

 店長との接触は少なかったが、収穫はあるので焦りはない。まずは彼の性格や思考パターンを観察し、同時に俺の印象を強く植えつけることからだ。ノンケ相手なのだから殊更慎重に行動しなければならない。
 俺は彼の攻略法をあれこれ考えながら帰路に着いた。


岸本臣。バイト二日目。