ゾルグは夢を見ている。
 その腕の中には、セヴェリエがいた。
 すでにお互いの肌には一片の着衣もない。
 セヴェリエの体は、ゾルグの手によってすでに汗を含み、熱く色づいている。女のような柔らかさはないが、青年の筋肉の弾力と、甘酸っぱい匂いの汗が散り、ゾルグの性感を刺激した。その首筋に、ゾルグは口付ける。
『あ…』
 か細い声があがる。セヴェリエは、言葉を禁じられている。ゾルグは、こういう時こそ、普段聞くことができないセヴェリエの声を堪能したいと思う。たっぷりと唾液を満たしながら、両の胸の突起を嬲った。セヴェリエの半身がぐっと持ち上がり、いちだんと大きな声があがる。
 その手が伸びて、ゾルグの頭を押さえる。感じすぎると、拒否をする。自分がわからなくなるのが、まだ怖いのだ。
 ゾルグはその愛しい手の上に自分の手を重ね、そっと握る。そのまま体を上に移動して、セヴェリエの顔を見下ろす。
『セヴェリエ…』
 ゾルグは上擦った声で囁く。セヴェリエは目を閉ざし、唇から熱い息を漏らしている。細い髪がもつれ、額にかかっている。 眉間に皺を寄せていたが、瞼や頬は薔薇色に染まり、ひどく官能的に映った。その瞼に唇を落とす。ふと、セヴェリエの瞼が開き、潤んだ、硝子色の瞳がゾルグを捕らえる。それを見詰め返し、ゾルグはセヴェリエの唇を貪るように奪う。
 やわらかく舌を絡める。セヴェリエが自分に感じているのが、伝わってくる。重なった胸を通した鼓動は激しくなり、絡めた指は、下からゾルグの手を握り返す。それは舌の愛撫がより激しく、熱烈になるほど、強くなった。
 そして、先程からゾルグが片手でずっと握りしめているセヴェリエの自身は、いよいよその手の中で猛りを増す。
 ゾルグはセヴェリエの唇を解放すると、名残惜しげなセヴェリエを置いて、そのままセヴェリエの下肢へ移動した。すでにそそり立ってぬめりを帯びた杭は握ったまま、セヴェリエの足を開かせる。
 咎めるようなセヴェリエの喘ぎに構わず、ゾルグは開かれた奥へ口付けし、舌を踊らせる。途端にセヴェリエは抗いだす。
『や…はっ、あ…』
 しかし、込み上げてくる快楽は、たちまち抵抗する心をたやすく凌駕する。同時に扱き上げられる快感も手伝って、セヴェリエはされるがままになった。ゾルグは、奥を唾液で湿らせると、杭を扱く手は止めずに、もう片方の指をセヴェリエの奥へずぶりと刺し入れた。
『は、あ…っ』
 セヴェリエの体が震えた。ゾルグは指を増やしていきながら、さらに奥へとセヴェリエの中を貫く。指を動かすと、それが波紋となり、セヴェリエの全身を悦ばせる。声にならない叫びが二度、三度とあがる。ゾルグはしばらく、セヴェリエの声を愉しむと、その足を抱え上げ、自分の腰に巻き付けるように、己の杭をそこへあてがった。
『───はう…!』
 セヴェリエの喉がく、と持ち上がる。それに噛みつく勢いで、ゾルグは杭を突き刺した。燃えるように熱く、淫猥な肉壁が、ゾルグの杭にむしゃぶりついてくる。
『…あ』
 ゾルグは息が詰まるほどの快感に襲われる。すぐに射精してしまいそうだった。
 見下ろすと、セヴェリエがすっかり我を忘れて乱れている。
『セヴェリエ』
 ゾルグは名を呼びながら、腰を動かした。腹の下で、セヴェリエの勃ちあがった杭の先が擦れている。それをも扱きあげようと、ゾルグは体をさらに深く重ね、セヴェリエの両腿を持ち上げ、脛を肩に担ぐ。
『ん、はぁあっ!ああ、あ、ああああ!!』
 辱められた格好で、セヴェリエは気も狂わんばかりになる。その体が男であることを忘れ、ゾルグはその顔に見入り、腰を振った。汗を散らし、息を荒げながら、ゾルグはやがて訪れる絶頂を待つ。
(…セヴェリエ。お前は俺を許さないのか。)
 激しい責めに、悲鳴をあげるセヴェリエの顔を見下ろして、ゾルグは問い掛ける。
(お前と出会って、俺は変わった。許されるなら、俺はお前のそばを離れたくない。お前も俺から離れていかないでくれ。───お前に許しを乞うためなら、俺は何でもする。だから、俺を見てくれ…!)
 ゾルグは肩からセヴェリエの両足を降ろすと、泣きじゃくるセヴェリエを抱き締めた。肩越しに、嗚咽が繰り返される。ゾルグは腰に力を込めながら、セヴェリエを見詰めた。あ、とセヴェリエが声を上げ、ゾルグを見上げる。
 しかし、よく見ようとすればするほど、セヴェリエの瞳は遠ざかっていく気がした。
(ああ…)
 ゾルグはふと、己の杭を抜き差ししている場所を思う。───本来ならばそこは、排泄の器官である。ぐつぐつと、窮屈な音をたてて、押し戻してくる内部。無闇な律動に合わせて吐かれる、セヴェリエの呻き。そこでは、性の営みは許されていないのだ。快楽は、犯す者にあっても、犯される者にはない。───なんという、思い上がりか。
 やはり、駄目なのだ。
 ゾルグは急激に、体が冷えていく気がした。駄目だ。俺は。
 どうしたって、許されるわけがない。俺は、取り返しの付かないことをしたのだ。
 凍るような闇が、ゾルグの心を覆っていった。

 
苔穴の山賊たち