そして、ハザ達は海市館に侵入した。
 聖エーテルの小瓶を8人で分け狂人と化し、全員でエンデニールを襲った。
『地獄のような光景だったぜ』
 グレイが後ろから言った。灰褐色の長い髪を、首の後ろで纏めている。───どうやら弓使いらしい。
 王の墓を目指すのは、ゾルグとハザの他、仲間内では年長のヨルン、グレイ、トロス、年少者ではブレイムひとりが同行をゆるされていた。無口な性格だが、柔和な表情を常に崩さぬ、どことなく奇妙な少年である。
『エンデニールは今でこそ図太くなったがな。…はじめ、泣き叫んでばかりだった。俺達も薬のせいで、随分ひどくやった。眠ることを許さずに、幾晩もかけて順番にまわした』
 グレイの口調は、不気味なほどに淡々としていた。聖エーテルの効果中の記憶は、まるで他人の記憶であるかのように、朧になる。ゾルグはグレイの顔を見た。罪悪も自責も、その表情には表れていない。
『犯した…のか…』
 ゾルグは茫然と呻いた。
『───仕方なくだ!』
 突然ハザが立ち止まり、振り向いた。
『俺達だけが、悪者じゃない』
 トロスも立ち止まり、振り返った。
『エンデニールは南の王家の代理人として、俺達と南の民の間に入ってきた。そして奴は、おめでたい平和論を唱え、俺達から武器をすべて取り上げた。……争いの種をまずは捨てろと。そうしておきながらだ。俺達を安全な人里へ寄せ付けず、野外に放り出したのだ。もとはといえば、あの男の責任だ。自業自得だ』
『トロス。───それは、エンデニールひとりが招いたことではない。南の民の一部が仕組んだことだと、エンデニールは謝罪したではないか』
 ヨルンが反論した。いつの間にか、皆がその場に立ち尽くしていた。
 トロスはヨルンを見返しながら、口元を歪めた。
『ほう。お前エルフの肩を持つのか。…なるほど、三日前やつの寝床に入り込んでいたのはさてはお前だな。情が湧いたか』
『何を!』
『───やめろ!!』ハザが叫ぶ。
『今そんなことで、言い争っている場合か。───ゾルグ。断っておくが、俺達は、俺達の土地を取り戻すためなら、何でもやる。それだけだ。だからお前がかつて緑の連合軍であろうと、協力するならば過去は問わない。今はとにかく、東の地へ行かなければならないのだ。目的のための志を乱すのは許さぬ。───お前達も、それを忘れるな』
 ハザの気迫で、少年達の表情が我に返った。そして、再び歩き出した。
『───わかった』
 ゾルグが言うと、ハザはふと表情をゆるめ、眼を伏せた。
『エンデニールは、気の毒な奴だ。あいつは唯一、南と東の古い盟約を護ろうとしていた。…エルフのくせに、人の間に立ったばかりに、自分の仲間に裏切られた』
 ゾルグはそれに何かいおうとしたが、ハザはすぐに身を翻し、先へ進みだした。
 他の仲間も、沈黙して、足早に歩き出す。

 王の墓は、もうすぐそこだった。
苔穴の山賊たち