オレは大人信者が断食をするのを横目で見ながら焼肉やら寿司をたいらげ、目が溶けるほどゲームをしまくった。
 まさに天国だった。そんな感じでだんだん疑問はどうでもよくなり、あっという間に一ヶ月、二ヶ月が過ぎていった。

 ある日オレは、対戦ゲームを担任の女性信者、“先生”と呼ばれているやつとやりながら、何気なく言った。
「先生」
「なに?」
「周は?」
 先生はポーズボタンを押した。画面が静止する。先生は二十歳ぐらいで、長い髪で目の大きい女だった。
「あいつ、ここに来ないの」
 大きな目が、困ったような表情になった。部屋にはオレ達以外誰もいなかった。オレが答えを待っていると、先生は部屋の入り口をしきりに気にしだした。
「ねえ、先生ってば」
 オレがせっつくと、足音が部屋の外から聞こえてきた。待っていたかのように先生が立ち上がると、見慣れない若い男信者が現われた。
「やあ、こんなところにいたの」
 男はわざとらしい笑顔を見せながらオレに向かって近付いてきた。日焼けした顔面に白い歯並びが浮いていた。
「ゲームはたのしいかな」
 笑顔を崩さずに、先生を追いやるようにオレの隣に座ると、男はオレの顔を舐めるように見詰めた。嫌な気分だった。思わず睨んだ。それに対して、男の顔はますます嬉しそうにほころんだ。「今夜はね、君の歓迎パーティーをやることになったんだ。すっかり遅くなっちゃったけど、君の前に入った子達も一緒だからね」
「パーティー?」
 オレはその響きについ反応していた。「ここで?」
 すると男は首を振って、外資系の超高級ホテルの名を上げた。
「ここから…出られるの?」
 オレは驚いた。
「ああ。勿論ちゃんと正装してね。施設の外から教団を助けてくれている人たちに、君たちを紹介するんだ。教祖さまにもね」
「本当?!」
「楽しみかい」
 オレは頷いた。ここに来てから、オレはまだ天使の王国の教祖に会っていなかった。写真は見たことがあったが、爺のくせに髪が長く、痩せた骸骨みたいな奴だった。先生の話では、選ばれた信者だけを集めて、この施設と離れたところに暮らしているらしい。ここの大人信者はみんな、そこへ行きたいと願って、ここで修業していた。教祖に会えることは、ここでは名誉だった。それがオレを興奮させた。
 男は先生にオレの身支度を二・三指示すると、部屋を出て行った。オレは周のことはすっかり忘れて、上機嫌でパーティー会場の御馳走のことに頭を巡らせていた。

 そして夜が来て、オレと五人の新入生は七五三のような格好をさせられ、迎えに来た2台のベンツに乗せられ、会場へと向かった。