フェルマールは振り返った。
『……とても恐ろしい、呪いです。しかし─────先程も申し上げましたが、マキュージオは一介の騎士に過ぎません。ヌールの王、ひいてはこのアルヴァロンを治める未来ある陛下と、釣り合うことではない……』
『…では、見殺しにしろと……?』
『………』
 フェルマールは答えなかった。
 暫く、沈黙が続いた。誰も口を開こうとしない中で、マキュージオの息だけが聞こえた。セロドアは、じっと眼を伏せ、その場に立ち尽くしていたが、ようやく口を開いた。
『今、すぐに…始められるのか』
 フェルマールは、静かに頷いた。
『わかった……では、お前達はさがれ。……』
『その前に、悪霊を呼び出しましょう。なに、少しの間です……この特別な薬を』
 と言って、フェルマールは懐から赤い液体の入った小瓶を取り出した。そして、口をだらしなく開けたマキュージオの顎をとり、一気に喉に流し入れた。それからマキュージオの四肢の鎖をほどく。ガシャリ、と金属の塊が落下した。
 マキュージオの体は、液体を嚥下してすぐに呼吸が落ち着き、震えもとまっていたが、力無くその場に崩れ、壁にもたれかかった。
『マキュージオ』
 思わずセロドアが駆け寄って、その身を起こす。
『じき、薬の効果で悪霊が目覚めます。…私達は退出しますが、何かあればすぐに駆けつけましょう。─────では』
 フェルマールはキリルを伴って、扉の外へと出ていった。

『マキュージオ。…マキュージオ。しっかりしろ……私だ。…わかるか?』
 セロドアは、マキュージオの体を揺さぶった。
 マキュージオはゆっくり眼を見開いた。セロドアの顔が間近にあった。
『セ……』
 セロドア様、と言いかけた時、マキュージオの体に異変が生じた。どくり、どくり、と心臓が続けざまに大きく脈打つ。急激に、体が熱くなった。先程、飲まされたあの薬───────エリクシールでは、なかったのだ。
『どう…したのだ?!マキュージオ───────…あッ』
 意識が飛び、気が付くと、マキュージオはセロドアを乱暴に押し倒していた。金銀の刺繍が施された王の衣装が乱れ、マキュージオの下で白い肌が露わになる。
 王子。
 心ではっきりと認識しているのに、マキュージオの手は、その絹に覆われた胸元を裂き、帯や装飾品をむしり取っていた。
 セロドアは、怯えた眼を向けながら必死で抵抗を抑え、されるがままになっていたが、両手首を強く掴まれ押さえつけられると、その痛みにう、と呻いた。その唇を唇で塞ぐ。こじ開けて、歯の間に舌を滑り込ませると、何か言葉を繰り出そうとするセロドアが、マキュージオの唇を噛んだ。
『…っ、あ、マキュー…ジオ』
 眼を固く閉じ、顔を背けようと横を向く顎から下、首筋を舐め、強く口づけた。
 抵抗はしないが、その余りの悪寒に、セロドアの体は震えていた。
 マキュージオの愛撫は耳に、髪に、そしてセロドアの胸にと移動した。
 香油で磨き上げられた肌はきめ細かく吸い付くような触り心地で、マキュージオを魅了する。
両手首から手を離し、セロドアの細い首の裏と腰を抱き、自由になったセロドアの両手の抗いを愉しみながら、深い口付けをした。受け入れることで精一杯だったセロドアの口内が大量の唾液に溢れ、舌が口からはみ出すのを、強く吸い上げる。
 甘い悲鳴に心地よく酔いながら、マキュージオはセロドアの自身に手を伸ばした。
 途端に、セロドアの体が跳ね上がるように抵抗する。
 身をよじらせ、マキュージオの下から逃げだそうとするのを、マキュージオはセロドアを強く愛撫することで制止した。
 ああ、と快感と苦悶が混じったような声がセロドアから漏れる。額にじっとり浮かぶ汗が、巻き毛を濡らしている。マキュージオはそっとその髪をかき上げ、額の下にある、鳶色の瞳を見詰めた。
『っ……はぁ、はぁ、はぁ……っ、マキュージオ………?』
 怪訝そうに、眉を寄せる。上気した頬。そこには嫌悪はなく、むしろマキュージオを心配するような表情だった。
…自身が望んだことではないというのに、この状況下で、なぜ。
 マキュージオは自責に苛まれたが、しかしおのれの肉体は依然として、いうことを聞かなかった。セロドアの、口付けの跡で赤くなった喉が上下に揺れている。マキュージオは、愛撫の手をつよめた。すると、鋭い悲鳴をあげ、セロドアの半身が反り返った。床にはだけた服の、衣擦れの音が耳に触る。
 セロドアの下衣を引き剥がすと、握りしめたセロドアの自身を口に含んだ。
『あぁッ』
 舌の動きに合わせて、セロドアがマキュージオの口内で敏感に反応し、張り詰めていく。
 マキュージオはその様子に興奮しながら、生まれて初めての口淫の快感にうち震えるセロドアの姿を堪能した。
 『あぅ……、はっ、はぁ、あ………ん、んっっ!』
 手を添えていた杭の下の膨らみが震え、マキュージオは噴き出したものを一気に吸い上げた。びく、びくびく、と大きな痙攣がセロドアの下半身に走り、あとは惚けたような吐息が漏れる。
 セロドアの顔は、何とも言い難い美しさに見えた。瞳は相変わらず、まっすぐにマキュージオを見詰め、唇は濡れて光っていた。
業星の騎士