最後の言葉は消え入りそうな早口だったが、マキュージオの耳にはっきりと刺さった。抱き寄せた肩を押しやり、マキュージオはユーリの顔を覗き込んだ。怯えている。もう謝罪の言葉すら浮かばない様子だった。
『お前も、わたしをそのように見るのか……』
暗い声でマキュージオがうめくと、ユーリの口が何かを言おうとして蠢いた。が、
『旦…那……っ』
 ふたたび被さってきたマキュージオの唇に乱暴に吸い付かれ、最後の言葉はかき消された。マキュージオは、ユーリの小さな唇を割って舌を捻じ込ませ、歯をこじ開け、その中の舌を絡め取った。唾液を垂れ流し、飲み込ませ、むせ返る咳を封じ込めるように唇で唇を塞ぐ。
 ユーリは必死に手を振り上げ、マキュージオの肩をたたき、突き飛ばして逃れようと奮闘していたが、ついにはその力も抜けていった。最後の抵抗のように、マキュージオの両肩を握り締める。マキュージオは小柄なユーリの体を両腕で抱き上げるように引き寄せ、さらに深く接吻した。暫しの時が流れた。
 外の雨音で、マキュージオはユーリが大人しくなったことを知り、唇を離す。
『…っ』
 マキュージオの腕に抱きとめられながら、ユーリは苦しそうに息を吸った。
『───あ…、嫌だ!!は、離してください…っ。お願いです、旦那様、お許しを…!ああっ!…嫌だ、嫌だ、嫌だっ』
 暴れるユーリの髪を掴んで寝台に引き摺っていく。仰向けに押し倒すと、ユーリは大声で助けを求めた。そこで、マキュージオはシーツを手で引き裂くと、その切れ端でユーリに轡をかませた。
『う…っ───』
 蒼白になっていく少年の瞳から、懇願の思いが溢れ出すのを、マキュージオは構わずに両足を押さえつけ、馬丁の服を脱がせていった。細い体だった。最初に会った時と比べ、いくらか肉はついていたが、腹にはあばらが浮き出ており、腰は折れてしまうのではないかと思うほど華奢だった。
 (わたしは、何をしようとしている)
 マキュージオは意識の端で自問した。耳の奥からじわじわと、汚物のような嫌悪がせりあがってくる。涙目で見上げるユーリの目。しかし、そこでふと、マキュージオの視線は、大きく開かれたユーリの胸の上の、うすい鴇色の突起をとらえた。
 荒い息に合わせて上下する動きに、マキュージオは魅入られた。
 ユーリの手首を強く握りながら、マキュージオは唇でそこに触れ、転がすように舐め回した。
『…っ!』
 ユーリの体が跳ね、引き攣るようにうねる。薄い皮膚は、強く吸い付くと赤い痣を残した。マキュージオは蛭のようにユーリの体に舌を這わせながら、くちづけの痕を散らす。
マキュージオにされるがままになったユーリは、鼻からしゃくりあげるような吐息を漏らした。
 喉元から耳の後ろまで一気に舌でねぶり、耳たぶを甘く噛んだ後、それまで指の腹でいたぶっていた乳首へ移り、屹立した先端を歯で擦る。
『う……っ』
 眉を寄せて吐かれる息は、マキュージオには官能の嬌声にも聞こえたが、ユーリが心底嫌がっているのは承知だった。固く閉じられた目が薄く開いた時、自分に対する絶望と憎悪が見て取れた。
 しかし、マキュージオはやめなかった。ユーリの細腕を頭上で組ませ、片手で固定しながら、マキュージオはユーリの中心を責めた。衝撃の表情で頬を紅潮させるユーリを見下ろしながら、茎をゆっくり扱き、先端の表皮を剥き上げる。
 ひ、と甲高い声があがった。初々しい艶を放つそれを、マキュージオは無心に扱き続け、やがてユーリは鼻から大きく息を吐いて、吐精した。
 中心を握る手のひらから、熱い脈動が伝わってくる。
 ユーリの精の匂いを感じながら、マキュージオは指先で零れ落ちる白濁を掬い取り、ユーリの後孔に塗りつけながら、指の先を奥へ差し込んだ。
『うっ、…ぁッ』
 封じ込められた両手が抵抗する。割り開かれた足が閉じようと懸命になる。顔を左右に振り、ユーリはマキュージオに必死の形相を向けた。が、マキュージオは指を一気に突き立てた。
『ン────────────!!!!』
 目を剥き、ユーリの体が衝撃に硬直する。
 咥え込まれた指は信じがたい圧力で、マキュージオを一瞬躊躇させた。
 ユーリは、どうしようもない痛みに堪えきれないのか、涙を滲ませて震えている。
 マキュージオはその顔を見つめながら、指を抜き、ユーリの後孔にまとわりついた白濁を指先で集めて潤いを足しながら、ふたたび指をくぐらせ────その行為を何度か繰り返し、ようやくユーリのそこを柔らかく解すことができた。
 ユーリはぐったりと脱力し、麻痺したような状態になっていた。意思を捨てた瞳が、マキュージオを見あげていた。
 観念したか、と思うと同時に、マキュージオは寂寥を感じた。ユーリは、自分を憎むだろう。きっと復讐を思うだろう。
 マキュージオは己の杭を扱き勃ちあげると、ユーリの奥にあてがい、そのまま穿った。
 指では完全に解れなかったのか、内部の圧迫がマキュージオを握りつぶし、喉から息をく、と吐いた。が、根元まで飲み込ませる。
『ん……っ───あ』
 燃えるような熱の肉壁を、やっとの思いで後退し、また奥へ刺し入れる。ユーリの顔を見る余裕はなかった。
デュラハン