これは快楽の行為ではなかった。ユーリの快感はもとより、マキュージオ自身も、それが目的ではなかった。
 ───しかし粘液に擦られていくうちに、抜き差しはだんだんとたやすくなっていく。マキュージオは己の腰を強く打ち込んだ。ユーリが、轡の隙間から潰されたような悲鳴をあげた。
 マキュージオの息と動作はいっそう激しくなり、ユーリを拘束する手を離すと、覆い被さってユーリの両足を持ち上げ、犯し始めた。
『んっ!ん、んんっ、う、ん、んんっ、う!…ん───!!!』
 轡を噛み締めながらユーリが喘ぎ、安宿のベッドの脚が振動でぐらぐらと揺れた。
 マキュージオはユーリの肩口に顔を寄せ、金髪に口付けた。────干草の匂いがする。
 腰を激しく動かしながら、思った。
(わたしを恐れるがいい、ユーリ。わたしを憎みながら、わたしに怯えて、この先かしずくのだ───)
業星を持つ者に、情は要らぬ。親も、そして従者も。この世のすべてに疎まれてこそが、業星の宿命なのだ。だから───

(何も要らぬ。)

 マキュージオの心は、ふたたび目の前の暗雲に戻った。
 風に、血のにおいが混じっている。
 そして、死のにおいも。
 あの彼方に、セロドアが本当に居るのか、確証はない。が、今のマキュージオは迷いとは無縁であった。
 フェルマールの言葉通りなら、あの方はすでにあの方ではなく、そのひとであった身も心も何もかもを失っている。そうして一片の救いのない不死の命を歩むのだという。
(なぜあのお方だけが、こうも悲惨な運命を辿る?)
 マキュージオは苦々しく唇を噛んだ。しかし。
(フェルマールよ。お前はあのお方からすべてを奪ったつもりだろうが、ひとつだけ、決して奪えぬものがある。わたしの、あの方への思いだけは、消えぬ。たとえ神の力をもってしても、わたしの思いだけはわたしの中で不滅)
 遠くの視界に、軍勢の蠢きを確認し、マキュージオはラディエントの弓を取り上げ、矢筒から虹の矢を一本引き抜いた。
『陛下。───今参ります』

 銀色の矢弦をひき、マキュージオは一直線に閃光の矢を放った。
デュラハン