…そこには、目はなかった。瞼もなく、あるのは空洞のみだった。眼帯の覆っていた部分の皮膚は紫色に変色しており、干からびていた。
『見るな………』
 掠れた声で、ジアコルドが言った。左の目に、涙がうかんでいた。
『このように惨めな姿……誰にも見せたくはなかった……!』
 悔しさの余りか、ぎりぎりと歯を噛み締めている。
 そこへ、マキュージオは舌を這わせていく。
『っ…』
 ジアコルドの口は、再びするどい叫びをあげた。
 マキュージオの愛撫が、ジアコルドの失われた左目の方へ向かったからだった。
『ひぃっ』
 恐怖のあまり、ジアコルドは硬直した。
 マキュージオの舌先は、邪悪な蛇のように、ジアコルドの目のまわりを這い回る。
『あ…あ……あ』
 ジアコルドは、おぞましさで声が切れ切れになっている。ジアコルドのその部分は、すでに感覚がなかったが、恐怖が彼の心をすっかりむしばんだせいで、過去の激痛の記憶がよみがえるようだった。
『マキュー…ジオ』
───ぷちゅ。
『あああああああ!!!』
 突然、ジアコルドの左目の中に、マキュージオの舌先が差し込まれた。そして、ねじ込むように中を抉る。ジアコルドは声にならない悲鳴をあげ、体を跳ね上げた。すると舌が抜かれ、両肩をふたたび押さえられた。
『はぁぁっ、はあ、はっ』
 恐怖の叫びに混じって激しい息を吐く。そこに、マキュージオの唇が軽く触れた。
『マキュー、ジオ…』
 左目から、とめどもなく流れ出る涙。声は嗚咽に変わっていた。『たすけてくれ…』
『わたしは、このような方法しか知りません』
 マキュージオは、何の感情も込めずに言うと、ジアコルドの衣服の前を広げた。痩せ細った首筋を嘗め上げ、徐々に胸や腹へ、愛撫を広げていく。ジアコルドは最初、嗚咽にまぎれて抵抗するように身をよじっていた。
 しかし吸い付かれ、嘗め上げられるのを繰り返されるうちに、えもいわれぬような深い息を吐き出すようになった。
マキュージオの自身は、すでに熱をおびていた。が、マキュージオの腰と布越しに擦りあっているジアコルドのそれは、いまだに反応はないようだった。
『マキュージオ』
 ふいに、ジアコルドが口を開いた。
『…お前と修道士も、こんな風に睦み合っていたのか』
『なぜ…』
『俺とそやつを重ねておるのだろうが、そうは…いかぬ』
 ジアコルドは口元をゆがめた。
『───そのような手加減など』
 マキュージオは、ジアコルドの両膝を限界まで広げた。そして、衣服の下からジアコルドの自身を露わにした。髪の色と同じ、金色の繁みの中のそれを指先で巧みに扱きあげながら、そこを口付けた。
ぐん、とジアコルドの半身が弓なりになった。
 ジアコルドは、縛られた両手を強く握りしめて堪えた。すると、その抑制が、思いの外の障害となってくる。
 マキュージオが愛撫から唇を離すと、ジアコルドの杭はみごとに勃ち上がっていた。
 いよいよ絶頂をむかえようと、蜜を滴らせている。
『は…っっ、は…』
 もはや勢いを止められぬジアコルドは見えない瞳で、マキュージオの様子をうかがった。どうしようもないというように、肩と腰を捩る。麻縄の巻き付いた手足の先は、身動きのたびに骨に食い込み、皮膚を削ぐ。それに苦しそうに眉を寄せ、汗を額ににじませている。そのさまは、マキュージオの劣情をそそった。思わずジアコルドの上に被さると、ジアコルドの唇は、期待のこもった溜息を漏らした。
 しかしマキュージオはジアコルドの肩を引くと、杭を立たせたまま、体を俯せに倒した。ジアコルドは肩と頬を床に擦りつけられ、尻を高く持ち上げられる。
『何を…する気だ…』
 構わずにマキュージオは、ジアコルドの背中から衣服をはぎ取った。
 なめらかな曲線を持つ背中に、黒い墨で獅子像が彫られている。それが、興奮と屈辱で燃え上がり、震えていた。淫靡な光景だった。さらに下の方もひき下ろす。
『…このような屈辱は、許せぬ』
 下から、荒い息を押さえることのできないジアコルドが呻く。
『貴様を殺してやる』
 マキュージオは、ジアコルドの裸の背中に指を這わせていく。首筋から、背筋を通り、尻の奥まで。
『ぅ…』
 苦しげな呻きだったが、それは、マキュージオの愛撫を再び受け入れた、ジアコルドの杭から漏れてくるものだった。マキュージオは、熱く息づいているそこを、緩く撫で上げながらおもむろに、ジアコルドの足の付け根に、片方の手指を這わせはじめた。
隻眼王
 
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