ジアコルドは、精を放とうとそちらに夢中になっている。息があがり、何も考えられないという様子だった。一方で、マキュージオは長い指をジアコルドの中へ、奥深くへ滑り込ませていく。
 その腰が、静かに痙攣する。早い息が続く。声にならない声が、殺してやる、殺してやる、と繰り返している。
『ああ………』
 そしてついにけだるい喘ぎが漏れる。が、そこで終わりではなかった。
 待ち受けていたように、内部に埋め込まれたマキュージオの指が、ジアコルドの芯をかき乱しはじめたのだった。
 精を放った後も、マキュージオの手はジアコルドの杭を捕らえていたのが、こぼれ落ちた精にまみれた手の中で、ふたたび熱がもどろうとしていた。
『ああぁ…マキュージオ…やめ…』
 ジアコルドは錯乱した。その後、杭を握りしめたマキュージオの手は離れたが、かわりに、すさまじい衝撃がジアコルドの体を突き破った。マキュージオの杭は、ジアコルドの体の芯へ埋め込まれ、きつい弾力に蹂躙されながらも、奥へ吸い込んでいく。
『っあああああ、あっ……う、…ああ!!』
 闇の中、身動きさえ禁じられ、ジアコルドは体の奥からとめどなく溢れ出る声を抑えることはできない。マキュージオは、容赦なく腰を突き上げた。突かれた場所が擦り切れ、鮮血がジアコルドの股を伝う。血の匂いが汗の匂いと混ざり出す。
 マキュージオは、ジアコルドの背に覆い被さり、裏返る声や、呻き声に耳を傾け酔いしれながら、腰を狂おしく押し進めた。 深く突きながら背中の入れ墨に歯を立てて嘗め回すと、いっそう高い声をあげる。
 しかし、精を放つことはゆるさなかった。マキュージオはその兆しを感じ取ると、すぐに腰の勢いを緩め、ジアコルドへの愛撫を放棄した。…そして、ようやくマキュージオ自身の限界が近づいた。ふと意識を手放すと、大きな痙攣がマキュージオの背筋をびりびりと走った。両手でジアコルドの腰を掴み、最も深い場所で精を放つ。
『ああ…っっ、───ぅあああああああっ』
 ジアコルドの立てた両膝が、がくがくと震え出す。その足の付け根と、杭の先から、大量の精がしたたり落ちてきた。

『あなたは勇敢だ。わたしに抱かれ、気を失わなかった』
『黙れ』
 腹立たしげな声を聞きながら、マキュージオはジアコルドの拘束を解いていく。とは言いながらも、自由になった手足は、すぐに動こうとせず、だらりと床に投げ出された。
 マキュージオは立ち上がると、脱いだ衣服を身につけはじめた。暖炉の赤い火に照らされ、裸のジアコルドの肌が艶やかにうつる。汗の光でもあったが、腹や腿のあたりは、精が散って乾かずにこびりついているのだった。
 マキュージオは衣服を整えると、乾いたマントをとり、ジアコルドの体に掛けた。
『…あの修道院がどうなったか、聞きたくはないか』
 ようやく息が落ち着いた様子のジアコルドがおもむろに口を開く。
『3年前、我らはこの地へ辿り着いてすぐ、山へ向かった。刃の丘を占領したのも同時だった。…修道院に特に関心はなかったが、人間がいるのが邪魔だった。たとえ老いぼればかりでもな』
『殺したのですか』
『いや。その前に、死んでいた。修道院の扉を内側から閉め切って、自分達で火を放った。我らが到着した時にはすでに遅かった。…死体を確かめようにも、石の扉が強固でな。開くことができなかった。…あの一帯を封鎖したのは、我らのせめてもの情だ。あの修道院を彼らの墓標にと……何をそこまで恐れたのか。我らは命まで奪う気はなかった』
 マキュージオは、愕然とした。その場に立ちすくんで、ジアコルドを見下ろしていた。
 おのずとあの修道士の顔を思い浮かべた。
───死んでいたのか。やはり。
『うぅっ』
 突然、ジアコルドが呻き、左目を押さえて苦しみだした。我に返ったマキュージオは、屈み込んだ。
『ジアコルド。どうしました』
『眼が…痛む』
 そして、手探りでマキュージオの腕にすがった。
『俺の上着の内に、薬がある。…それを』
 言われたとおりに探ると、掌におさまるほど小さな、ガラスの細長い小瓶が確かにあった。中に水のように透明な液体が入っている。
『その水を』
 促され、マキュージオは小瓶の栓を開けた。匂いはなかったが、強烈に目鼻を刺激してくる気体が出てきた。
(これは…)
『どうした。はやく…』
 手をのばすジアコルドに、マキュージオは言った。
『この薬は』
『サラフィナスが調合した。眼の痛みを和らげる、と…』
『わたしの目にまちがいがなければ、これは毒です』
『なに?』
 伸ばした手が止まる。
『体の内を徐々に溶かす酸と、痛み苦しみの感覚を麻痺させる麻薬を混ぜた、なしくずしの死を導く毒───かつて、王家の継承争いで使われたものと、同じかと』
 ジアコルドは起きあがり、驚愕の表情でこわばった。
『お前がどうしてそれを』
『わたしはかつて王家の人間でした。もはや滅び去った家系ですが』
『…サラフィナスめ。俺を陥れ、自分が主君となるか。あの藪』
『しかし彼が王になれば、鉱山で死ぬ者は減るでしょう』
隻眼王
 
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