涙が、滲んだ。
 なぜ。なぜ。なぜ。
『私を、どうする気だ』
 いつ襲いかかるやも知れぬミスリル縄の刺激の恐怖に、歯の奥を震わせながらエンデニールはハザを見上げた。
『─────どうして欲しい』
 三白眼は聞き返した。もはや、反撃の余地はなかった。
『…殺してくれ。いっそ─────』
『ならば自分で死ね。舌を噛み切ってみろ。それとも、暖炉に首を突っ込むか。死を望むのはお前の自由』
『そんな─────』
 エンデニールは愕然として、呻いた。そう言われたところで、それらを実行する勇気は己にないことを思い知った。
躊躇するエンデニールの様子を見て、ハザは笑った。
『この館は今から俺達のものだ。だからお前のことも好きにする。お前も俺達の所有物だ。いいな。もう一度いうが、死にたかったら勝手に死ね。…だがその前に、俺達を愉しませてもらうが』

…エンデニールは、奥歯を噛んでいる。
 ぴったり合わさった上下の奥歯が痺れ、顎が震えるほど強く、長い間噛み締めている。額には大粒の汗が吹き出ては流れ落ち、かたく閉ざした目尻の涙と混ざって床に落ちた。出血の筋がこびりついた鼻孔から、切なげな息が漏れている。
『………うぅ、あ!!』
 弾かれたように叫ぶ。跳ね上がった肩を、数本の手が伸びて押さえつけた。
『やめ……ろ…』
『やめてください、だろう?』
 耳元に囁きかけながら、舌先が耳孔をねぶる。
『はっ…』
 喉を仰け反らせる。と、そこへも舌が這う。同時に、胸の突起に爪を擦りつけられる。汗で湿った肌を愉しむように、腹や背中が撫で回される。体の中心は、熱く柔らかな口腔の粘膜にくるまれ、舌の愛撫を受けていた。
 そしてたった今、新たな舌先がエンデニールの足の付け根を這いずり、奥の入り口の中に潜り込んだところであった。
 
 先程の闖入者、8人の少年に、エンデニールは蹂躙されている最中である。
 首には魔法封じのミスリル銀の縄。エンデニールが少しでも反抗する素振りを見せればたちまち絞められ、電流が流れる仕組みである。すでに、エンデニールの首周りは、幾筋も、赤黒い火傷が拡がっていた。仕置きの痛みと、体中を這い回る舌と指先による悪寒が、エンデニールの精神を破壊している。このまま陵辱に身を任せ、時が経つのを待つしかないのか。しかし、そうなるのは至極容易いことに思える。つまり、敵の思う壺である。
─────ならば、ならば最後まで屈せず、奴等の興味を先に削がせてしまえ。  
 エンデニールは再び気を取り戻し、閉じていた目を開けた。しかし現実の己の姿を見て、急激に意志が萎えた。
 少年、否、男達はエンデニールの体を軽々と持ち上げ、様々な体勢にしてエンデニールの体のあちこちを責めた。1人が腰を抱え上げると、両側の二人が足を大きく開かせる。そこへ別の二人が両側から挟んでエンデニールの杭を舌で扱き上げるのだった。責めは長々と続き、エンデニールは堪らず、杭の先から先走りを垂らし始める。ピンと張りつめた杭の表面が、濡れ輝いているのを見て、男達から吐息が漏れた。
『…う、はぁっ、はぁ、はぁ、はあ』
 杭を震わせながら、エンデニールは苦しげに身悶えた。寸手のところで舌の愛撫は止められる。しかし相変わらず、その部分以外の体の蹂躙は続けられていた。
『つ…ああああ!』
 首輪を引かれ、四つんばいにさせられた。何かに服従するように、頭を地につけられ、足を開いたまま、膝立ちで尻が上げられる。
『、…ああっ、いやだ、…あああああああ─────あ、あ、あ…』
 尻の肉が掻き分けられ、数人の舌先が一挙に責め立てる。エンデニールの顔は紅潮し、混乱と羞恥で身を震わせている。尻の奥から熱い衝動がわき起こり、背筋を、喉を引き上げた。足の間からのびた手が、杭を擦り出す。乳首が嘗められ、首筋が嘗められる。
『エルフとはこうも淫乱な種族だったのだな。男とはいえ、なかなかそそる』
 頭の上から声がする。エンデニールはその方向を睨んだ。さっきの男だ…そういえば、ハザの姿はどこだろうか。先程からずっと責めたてているのは、手下のうちでも弱年者のようだった。
『ハザ。もう…いいだろう?俺達も…もう─────限界だ……』
 エンデニールの体をなぶっている1人が、掠れた声で言った。どれも子供の声だ。まだ幼い。自分の体をそれらの声の主に犯されている現実が、エンデニールをさらに苦しめていく。
『俺も』
『俺もだ…』
『はやくこいつにぶち込ませてくれよ、我慢できねえ』
 まだ声変わりも迎えていないらしい1人が、もどかしげに叫ぶ。
…子供に。
 エンデニールは、おぞましさに吐き気を覚えた。
『待て。最初はハザからだろう。なあ?』
 エンデニールは耳を引き上げられ、顔の向きを変えられる。ハザの顔がそこにあった。
 右手に、ミスリル縄の端を巻き付けている。





 
森の貴族